第15話 vsアイル
「うそでしょ!?いつの間にうちのモンちゃんやられてるんだけど!」
「そりゃただの鳥がメルクに勝てるわけないだろ!ていうかよそ見すんな!!」
「ちょっ!!普通女の顔をそんなに躊躇なく殴れる!?」
闘いの最中、自分の相棒である鷹が為す術もなくやられたという事実に、一瞬思考が持っていかれるアイル。そんなことを許すつもりのないルウラは、アイルのきめ細やかな肌に男らしい無骨な拳をめり込ませてやった。
「闘いに性別なんて関係ないだろーが」
「ふっ、その通りね。でもあなたが二回もモンちゃんのことを"鳥"って言ったことは絶対に許さないから!!」
「聞こえてたのかよ!」
ルウラの何気なく放った一言に一瞬目を丸くするアイルだが、その前に聞こえた"鳥"という単語を思い出すと、すぐさまその表情を恐ろしいものに貼り替えた。
「くっ...!!まだ速くなんのか!」
アイルの槍を突く速度がより一層速くなる。今までは全ての突きを自らの肉体をもっていなしていたが、流石に避けざるを得ないような鋭い攻撃がルウラを次々と襲う。
「あら?ちょっと余裕がなくなってきたんじゃない??」
「う────っるせぇよ!」
ルウラは槍をかいくぐってアイルの横腹に蹴りを入れるが、力んだことによって言葉の勢いが強くなった。
ルウラの蹴りによって二人の間にかなりの距離が開く。そこで何故かアイルが突きの態勢になる。長槍の間合いでもないのにいったい何を企んでいるのかと疑問に思うルラだが、周りの団員の反応は違った。
「おいおい、あんなの使ったらあのガキ死ぬんじゃねーか」
「初見で対応するのはほぼ不可能だろうからな。まぁ、アイルさんならそこらへんは
上手く調節するだろ」
(いったい何をするのかしら。。。)
その期待と不安に満ち溢れた団員たちを見て、とりあえずルウラにとって良くない何かが起こるのだろうということをククは察する。
「そこからじゃ槍は届かねーよ?」
ルウラは思ったことをそのまま口に出すと、アイルが片方の口端を上げて不敵な笑みを作った。
「問題ないわよ。あなたがどこにいたって射程範囲内だから」
その言葉を体現するが如く、アイルは後ろに引いて構えた槍を、パイプのようにして支えていた左手を通して前へと突き出した。
『魔を辿り魔にたどり着く。そして槍撃は貫き通す』
「────ッ!!まじかよ!」
ルウラは思いもよらない光景に目を見開いた。アイルが詠唱をした途端、突き出された槍がルウラ目掛けて伸びたのだ。
団員たちはおぉ!と声を上げて、アイルの勝利を確信した。
目も眩むほどの速さで迫るその必殺の一撃は、一瞬でルウラの首元に敗北へと繋がる死神の鎌をかけた。
アイドーンとブレールも流石にこれは勝負あったか、と眉間にしわを寄せて表情筋をこわばらせる。
しかし、そう簡単にやられるルウラではなかった。
「ふんっ!!」
心臓目掛けて飛んできた一撃を、ルウラは直撃する寸前で横に飛んで躱す。空を切った穂先がルウラの元居た場所を通り過ぎると、隙だらけになったアイルに突貫した。
「よし!これならいける!!」
恐らく捨て身の一撃だったのだろう。その攻撃が外されてしまった以上、もうアイルに為す術はない。そう思ったククは声を上げてルウラの勝利を確信した。
しかし、どうも周りの反応が自分が思っていたものと違うことに気付く。
(・・・どうしてまだそんな表情ができるの??)
そう、魔法騎士団員たちの表情は全く死んでいなかった。むしろさっきよりも何かを待ちわびている目をしているような。これが実はルウラを応援していたということなら納得できるが、恐らくそれはないだろう。ブルーダ王がいた手前あからさまに表情に出す者はいなかったが、ルウラに向けられる視線の寒さが自分の肌をなでつけたのを感じていた。
だったらどうして。そう思っていると、ルウラの背後から何かが迫ってくるのが見えた!!
「────ッ‼ルウラ!後ろ!!」
「えっ?」
ルウラの背中を追いかけるのは鈍色の輝き。よく見たらルウラを通り過ぎた時点で、槍の柄の部分が大きく曲がってその背中を捉えていた。
ククが慌ててルウラに迫りくる危険を叫び、一拍遅れてルウラもそれに気が付く。
しかし、槍の先がルウラの背中に触れる寸前、ルウラの口元が微かに動いた。
『脱兎の如く』
その言葉と共に、ルウラの姿は影すら残すことなくその場から消えた。
「お、おい、どこいったんだあいつ」
「急に消えたぞ・・・」
急に視界からルウラが消えてしまったことにざわつく団員たち。
しかしその直後、全く別の方向からルウラの声が聞こえてきた。
「後ろ見ろー」
「えっ!?」
他の団員たちと同じく、いやそれ以上にルウラが忽然とその姿を消したことに驚きを隠せないアイルは素っ頓狂な声を上げる。声が聞こえてきた後方に首を傾けると、そこにはついさっきまで自分に向かって走っていたルウラの姿があった。
「ちょっ、アイルさん前見て前!!」
「刺さるって!!」
背後のルウラに気を取られていたせいでこちらに向かってくる槍の存在が完全に意識の外に追いやられていた。慌てて魔法を解除しようとするアイルの肩を、誰かの手が触れた。
「────ッ!!いってぇーーー!」
その手の正体はルウラのものだった。飛び出したルウラがアイルの肩を自分の方へ引き寄せると、余ったもう一つの手で迫りくる槍の柄の部分を思い切り掴んでその勢いを殺した。
一瞬ぼーっとルウラの顔を見つめるアイルだったが、手を震わせながら槍を抑えるルウラの手を見ると、霞んだ意識を呼び戻して急いで解除をした。
「ふぅ、ようやく止まったー。お前大丈夫か?」
「え、えぇ。あなたこそ大丈夫なの?」
「ん?まぁかすり傷程度だから気にすんなよ」
「まだ勝負は続行するのか?」
両者ともに動きが止まってしまったのを見兼ねたアイドーンが声をかけると、アイルが頬を少し赤く染めながら、両手を上げて降参の意を示した。
「ま、参りました」
「いやー、こんなに強いとは思わなかったよ!!いいものを見せてもらった」
仕合が終わったルウラに近づいたブルーダは拍手を伴って、疲労感を漂わせる黒髪の少年を称える。
「結構強かったなあいつ。でもあそこにいる団長ってのはもっと強いんだろ?」
ルウラがアイドーンの方に視線を向けると、向こうもこちらをじっと見つめていた。
「そりゃ団長だからね。ちょー強いよ」
そのルウラの独り言にブルーダがぶっきらぼうに答える。
「でもさ、、、なんかすごいこっち見てくるんだけど」
「もしかして君に気があるんじゃないのかな??ほら、ああいうがっちりした奴に限って男色家が多い傾向にあるだろ?」
「確かに・・・俺の村にもそんな奴がいた気がする。。。」
まさか視線の先で自分の性的指向について語られているとは微塵も思っていないアイドーンは、脳裏にこびりついた先の戦闘を思い返していた。
(あれが本当に尻尾付きの動きなのか・・・しかし、微小な魔力量で凄まじい腕を持つ探索者がいたというのを聞いたことがあったな。それと似たようなものなのだろうか。)
アイドーンはどんどん思考が深いところに落ちていき、視線が一点に固定される。
すると、ルウラがこちらへ歩いてくるのが視界内に映るが、その事実にアイドーンは気が付かない。
「...さん!おじさん!!」
「うぉ!!どうしたルウラ君」
思考の渦に囚われていたアイドーンは、ルウラが呼ぶ声に反応して現実に引き戻される。
そして、ルウラが自分の両手のひらを合わせて頭を軽く下げ、
「ごめん!!俺の恋愛対象って女だから!!」
と言って急いでその場を離れていった。
「い、一体何のことなんだ・・・」
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