4-1

 数日後、喫茶店で私はドキドキしていた。

 これが恋愛的な意味ならまだ救いがあるんだけど、私は今の服装が異常に見えないかどうかという、かなり低レベルなところでドキドキしてるのだから救えない。

 香ちゃんは「今日の服装可愛いね」とも「ヤバいね」とも言わず、私と話してくれているので、恐らくは彼女の目にはいつも通りに映っているのだろう。

 いや、そう思いたいだけなのかも、本当はヤバ過ぎて何も言えなくなってるだけとか。いやいやそんなことは無いはず。


 そう、今日の服装は伊万里が私にアドバイスしてくれたことを参考に、自分なりに考えて服を選んでいる。大学にその恰好をしていく勇気はまだ出なかったから、香ちゃんと会う為にわざわざ着替えた。

 変じゃないといいんだけど、変じゃないかな? と訊くのは多分変だから何も言えずにいる。考えると辛くなるから、私は息の続く限り、どれだけ大学の課題が大変かということを香ちゃんにベラベラと話しまくった。だけどもうネタが無い。

 というか、これから大学に入ろうとしている高校生にこんな話を長々と聞かせるって、なんか脅してるっぽくて申し訳なくなってきた。私は適当なところで言葉を切って、それでもまだ気分が晴れなかったから、小さくため息をついた。

 そしてこの話題と思考から逃げるように、香ちゃんは最近何かあった? と問い掛けてみた。


「そういえば、益子さんと話したよ」

「そうなんだ?」


 そうだよ、それ。私が聞きたかったのはその話。自分の服装のことで精神的に手一杯になっててすっかり忘れていた。私は細心の注意を払って「待ってました!」と喜ばないようにして、静かに相槌を打つ。だけど、少々演技が過ぎたようだ。


「散々いじっといて興味なさそうじゃん」

「興味ないなんてことはないよ。で、どんな話したの?」

「あー、と。なんでいつも一人でいるの、とか」

「つっこみすぎじゃない?」


 なにその質問。高校時代の私がされたら「自分で話しかける勇気が出ない私をお前らが構ってくれないからだよ」って泣きながら机に突っ伏すと思う。ぼっちにその質問は駄目だよ、香ちゃん。どうしてそんな丁寧に心を追い詰める質問をピンポイントでしちゃうの。


 唖然としていると、香ちゃんは私達がどれくらい会っていないかを気にしだした。一か月? 二、三週間? 過去にもらったメッセージを見直せばはっきりするけど、そこまで重要ではないようなので、私達は体感時間のずれを晒し合って終わった。

 まぁ一か月って大体四週間だから、そこまでズレてるとは言えないけど。でも、前に香ちゃんに会った時は、今よりも肌の露出が少ない服装をしていたと思う。

 季節は夏に向けて動き出していて、あの日と同じ格好をして外に出たら「寒がりなのかな」って思われるくらいには時季外れだ。日本の四季は好きだけど季節に合わせた服が必要になるからそういう意味では全然有り難くないな。


「その前にも色々あったんだよ。益子さんのお母さんとも話したし」

「え? ごめん、ちょっと付いてけない」

「車で送ってもらったの」

「はい?」


 上着が要らなくなるくらいの短い間に、香ちゃんと益子さんの関係はとんでもない進展を見せていた。

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