第18話 うそつき

「ただいま、姉さん」


「おかえりなさい」


 柔らかい笑顔を返してくれる。食事の量が増えているからだろう、以前よりも顔色が良くなって来ている。


 おかえりなさい


 そうか。ナックはもう、家に帰ってもそう返してくれる人がいない。

 それは、どんな気持ちなんだろう。今まで自分を暖かく出迎えてくれた人が、いない。僕には想像もつかないけれどそれは、とてつもなくつらいことなんじゃないのか。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない。なんでもないよ、姉さん」


「そう?無理してない?」


「大丈夫だよ」


「本当に?」


「本当に」


「何かしてほしいこととか、ない?」


「うん、別に———」


 どこか不満そうな顔でじっと見つめている。


「——じゃあ、マッサージでもしてもらおう、かな?」


「まかせて!疲れなんて、吹っ飛んじゃうんだから」


 やる気ましましでそう答える姉さんに、敵わないな、と思った。




「どう?」


「うん、すごく気持ちいい」


 僕は今、うつ伏せになっていて、背中を姉さんに指で押してもらっている。


「あー、癒されるー」


「やっぱり疲れてたんじゃない」


「あー…うん、そうだね。ちょっと大変だったかも」


「何かあったの?」


「んー…ちょっとだけ、あったにはあったけど、もう大丈夫」


「そう」


「姉さん」


「何?」


「その、最近どう?」


「どうって?」


「仕事とか、嫌にならないのかなって」


「別に」


「そっか」


姉さんの反応が薄い。疲れてるのだろうか。


「姉さん」


「ん」


「僕も姉さんにマッサージしようか」


「…ありがと」


「うん」


「ねえ」


「うん?」


「本当に、なにもないの?」


「うん。姉さんが心配することは何もないよ」


「……」


ああ、まずいかも。このまま寝てしまいそうだ。


「ごめん……姉さん…眠い、かも……」


「いいよ。おやすみなさい」


「おや、すみ……姉さん」


「……」


「……」


「……」


「……」


「…うそつき」

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