第29話 支部
それは竜星現象と名付けられた。
流星、ならぬ竜星。
上手いこと言ったもんだなとサンドイッチを頬張る。レタスと鶏肉が挟まっていて、牛乳と合う。うまい。
銅貨五枚で食べる朝食も、初めは高すぎやしないかと抵抗してたけど、これでも物足りなくなってきている。贅沢を覚えてしまった。
あれから4日
偶然起きていた者は大声で自慢し、見ることが叶わなかった者はそれを聞いて悔しがる。
今一番ホットな話題で、竜神信仰、なんてのが流行ってるらしい。
もともとマイナーだった竜神信仰は、竜星現象と布教により一世を風靡し、メキメキと信者の数を伸ばしているようだ。
そして意外にも不安そうな顔をしている人は少ない。何をしようが、ドラゴンをどうこうするなんてできないからだろう。
しかしその一方で、ドラゴンの卵を見つけようとする人もいた。
今までは噂だと考えられていたけど、実際にドラゴンを見てしまったことで、これはもしかしたらあるのではないか、と思ったらしい。
馬鹿なんじゃないか、と思う。
せめて巻き込まない所でやって欲しい
あれは昨日みたいに遠くから見て、願い事でもしているくらいがちょうどいい気がするんだ。
「やっぱりわたしもドラゴン見たかったなあ」
「そうだね。俺も見たかったよ」
何気ない感じで同意する。
昨日、あれからドラゴンが去っていった夜空をしばらく見た後、姉さんが起きる前にこっそりと宿屋に戻って寝た。
つまり、今、俺は姉さんに嘘をついた。
こういうことが時々ある。
聖天法を覚えてからはかすり傷を治してから帰って、怪我なんてしなかったと言うこともあった。
昨日の事もなんで外を散歩してたのか、と聞かれると姉さんを心配させてしまうかもしれないし、それに一々説明するのが面倒という気持ちもまあ、あったりする。
これはどうなんだろう。嘘をつくのは良くないことだ。だけど、話して気を使わせるのもどうか。別にそうしたいわけでもないし。
そもそも、家族だからとすべてを話す必要もないんじゃないのか。隠し事は誰にだってあるだろう。
でも、姉さんは何か話したくないこととかあったりするのだろうか。少し気になる。
色々と言い訳をしても、やっぱり嘘を吐く時はもやもやとした気分になる。
「ドラゴンに乗って空を飛んだら、気持ちいいだろうなー」
ぽやぽやと上を見ながら、姉さんは夢見がちなことを呟いている。自分がドラゴンに乗っている光景を想像しているのだろう。その様子を見ていると、なんだか肩の力が抜けてきた。
「そしたら姉さんと一緒に旅をするのもいいかもね」
「それいいね!いろんな国の食べ物とか、食べてみたいかも!」
「じゃあまずは、お金を稼ぐためにも勉強がんばらないとね」
「うん!」
拳を握って明るく笑う姉さんと朝食を食べて、冒険者ギルドに向かった。
受付でハイマンさんに挨拶をして、端に寄って待っていると、スーツらしきものを着ている男性が入口から入って来た。
「一般教養講習を受講される方はこちらにお集まりください」
受講するのは俺達だけのようだった。そのまま門の所に行ってギルドカードを見せ、受講生用の身分証を渡される。
城壁を越えると、目の前には幅広い道がずっと続いていて、そのさらに奥にあるもう一つの、通って来たものよりも立派な城壁のところまで続いている。
建築技術が優れているのか、もしくは魔法みたいなものでも使ったのか、高層ビルのような建物がたくさんあって、それよりも高い尖塔が城壁にくっつくように等間隔に並んでいる。
それでも小さく見えてしまうのは、あの城のせいだ。
まるで山のような大きさの城は亜麻色を基調としつつ、あちこちに琥珀色の模様で彩られている。この王都にいれば誰であろうとあれを目にし、その威容に圧倒されずにはいられないだろう。
城壁の中にいても尚、あそこは別世界だと感じられる。
別にあそこで住みたいというわけではない。
落ち着かないし。けど、ああいうのに憧れると言うか、目を奪われる気持ちは誰にだってあるだろう。
周りの景色に目移りしながらも、目的地に到着した。そこは、いつも通っている冒険者ギルドよりも何倍も大きい。
冒険者ギルドエリス王国支部で、この国での冒険者を管理している場所だ。
このギルドもビルのように高く、他にも幾つかの建物が含まれているようだ。
入口から三階に登って通路を歩き、幾つもある部屋の一つ、教室のように机が並んでいる一室で、席を指定されてここで待っているように、と言われた。
雑談でもしながら待っていると他の方角の城門の受講生らしき人が入って来て、同じように言われて席が埋まっていった。
全員が揃ってから少しして、前のドアから誰かが入って来る。
「お待たせいたしました、皆様。この講義を担当させていただく、リズ、と申します」
お辞儀の姿勢が綺麗だな、と感じた。
「さっそくですが、一般教養講習、第三回の講義を始めさせていただきます」
そう言って資料を配り、話し始めたのはリズという名前の女の人で、服装もきっちりと着こなしており真面目な印象の人だった。
「それでは前回の復習からいきましょう。ゼスさん。貴方は道端にサイフが落ちていた時、どうなさいますか?」
リズさんが指示棒を手に持って、ゼス、という前の席にいる生徒に問いかけた。
ゼスはこんなの当たり前だろ、と余裕そうな顔で答える。
「中身抜き取って捨てるに決まってんだろ」
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