第6話 仮登録
一日、丸ごと姉さんと二人で休んだことで体調が良くなり、今日は冒険者ギルドに行くことにした。
といっても、頬の切り傷や地面を滑った時にできた擦り傷が残っているし、今日は仮登録だけをする予定だ。
川の水で汚れは落としたとは言え、清潔というわけでも無いし、一日くらい様子見しても前回稼いだお金がまだ残っているからそこまで焦らなくてもいいだろう。
買取屋の店主に言われたように東城門の向かって右側にそれはあった。
二階建てで横に広く、左に見える教会よりもさらに装飾は少ない冒険者ギルドは、一見するとただの事務所のように見える。
冒険者ギルドの左にはくっついているのは倉庫だろうか、右手には酒場が、さらに横には宿屋が並んでいた。
緊張しながらも扉を開き、受付にまっすぐ向かう。周りには自分と同じ出自らしきものいて、まあ、見るからにガラが悪い。しかも全員装備も実力も自分より上だ。彼らはちらっとこちらを見たあと、すぐに興味を無くしてしまった。
…よし。絡まれなかった。
受付は全員男の人で、空いてるところに行くと怖い顔でこちらを見ていた。
「何のようだ。ここにあるものでも盗むつもりか?馬鹿な真似するつもりならさっさと帰れ」
見た目薄汚れたガキだからね。この態度も仕方ないのかもしれないけれど。
「いや、あの、そこの買取屋でこのコインもらって、受付で見せれば仮登録してもらえると言われたんだけど。」
受付の男は驚いた顔をして、それから疑うようにこちらを見たあと、まあいいか、といった
ように言った。
「名前は」
「レンです」
「そうか。…仮登録は終わった。これを持ってけ。言うまでもねぇが無くすんじゃねぇぞ。次はレッサーゴブリン5つ分の魔石を持ってこい。それが終わったら本登録だ。詳しい説明はその時にする。次回からの魔石の買い取りはそっちだ。」
また新しい硬貨を渡され、左の壁の方に見える受付を指差してもう終わりだと言うように視線を外された。
…正直、それだけ?なんて思わないでも無いけど、向こうからしたら運良くレッサーゴブリンを倒したかコインを盗んだように見えるのだろう。それが今の僕の評価だ。これからそれを変えていけるかどうか。それは自分次第だ。
頭を下げて足早に冒険者ギルドを後にする。
僕がこの前の狩りでレッサーゴブリンを標的にしたのは、実力的にもそうだけど、それが冒険者になるために必要だったからだ。
レッサーゴブリンの魔石を持って買い取ってもらう、そうすることで冒険者になるための手続きをしてもらうことができる。
この国の市民権を持っているのであれば、金さえ払えばいきなり冒険者の本登録をしてもらえるらしいのだが。
身分と金が無ければ、実力を示さなければ相手にもしてもらえない。そういうことなんだろう。
やらなくちゃいけないことはたくさんある。
防具も欲しいし、短剣ももっと良いやつを買いたい。傷を治すための手段も手に入れておきたいし、どこか訓練所みたいな場所があればお金を払って何か技能を身につけたい。
そう、金だ
何をするにも金がいる。金が無ければ何も始まらない。だけど無いんだ。無ければ他のもので補うしかない。
とりあえず、帰ったら素振りでもしてみようか。
家に帰って、路地の中で突っ立っている。
まず短剣の素振りの仕方なんて知らない。
長剣を両手で持ち、頭の上から振り下ろす。僕の中の素振りはだいたいそんなイメージだ。
とりあえず構えをとってみる。
しっくりこない。
やはり誰かに教わらないと無理だ。
一旦素振りはやめて、イメージトレーニングをする。
目を閉じると、一昨日の戦闘のおかげか、前よりもはっきりとイメージできる。
声を上げて向かってくるレッサーゴブリンに、短剣を持って迎え打とうとする僕。
ろくに剣を振ることもできずに押し倒される。
運良く当たってもそのままの勢いで噛みつかれる。
そして何もできずに殺された。
……良く、勝てたな。
あの時、二匹目のレッサーゴブリンが現れた時、もし迎え打とうとしていたらおそらくその時点で僕は殺されていただろう。
偶々短剣を落として逃げて、偶然攻撃を避けれて、投げた短剣がまぐれで刺さっただけ。
レッサーゴブリンを倒せたのは運が良かったとあの受付の男に思われても仕方ないだろう。
もっと長い剣が欲しい。
短剣じゃあなんとも心許無く感じてしまう。レッサーゴブリンは爪が長い。単純に考えて手数が倍だ。こちらの方が分が悪い。
いやいや、無い物ねだりしても仕方ないだろう。今は違うことを考えるべきだ。
まずは奇襲する。寝ている。背中を向けている。食事をしている。排泄をしている。などといった、こちらにすぐ対応できないような状況を狙う。
次に周りの地形を使う。この前みたいに木を障害物にしたり、たとえば逃げ道などを最初から決めておくだけでも大分違うだろう。
もし、こちらが奇襲されたら、まずは攻撃をまともに受けない。避けて、逃げる隙を伺うか、それがダメなら相手が大振りでもした時にでも攻撃するしかない。
そんなことを考えながら、何度も何度も、似たようなことを繰り返していった。
つまらなくても、命がかかってる。こんなとこで死ぬわけにはいかないんだ。
何のために命をかけるかを忘れるな。
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