第20話 魔法
そもそも、僕が聞きたいのはこういう話じゃない。そりゃあ、生活に余裕があって、娯楽に飢えている時とか、自分とは関係の無い世界の話として聴くには心惹かれるだろう。
だけど、でも、僕が聞きたいのはレッサーゴブリンやアダハウルフみたいな身近なやつのことだ。
「不満そうな顔をしてるねえ」
「そりゃ、まあ」
「何でも聞こうとするのは良くないよ。自分で見て、考える。それも一つの経験だからねえ」
「はあ…」
いや、確かにそういう所もなきにしもあらずだけど、その経験で死んじゃったら元も子もないっていうか。
「正しい知識を身に付けるってのも、結構大事だと思うんだけど」
「つまらないことをいうねえ。そもそも、おじさんの言うことが合ってるとも限らないじゃないか」
「うっ」
そうだ。今までが合っていたからといって、その人が話すことが正しいとは限らない。
「ははあ、ちょっといじわるしちゃったかな。代わりに良いことを教えてあげるよ」
「…ありがとう」
遊ばれている。それでも頼らないわけにはいかない。聞かないことにはなにも始まらないんだ。
教会で祈り、ご飯を食べ、僕と姉さんは草原にいた。ここから南東に進んでいくと、いつも狩りにいくアダハ森林がある。
「それじゃあ始めようか」
「いや…何を?」
ロキおじさんは無視して手を出してきた。
「握手しようか」
「え……何で?」
無理矢理右手を握られた。
「どうだい?」
「どうって…何が?」
「鈍いなあ。…これでどうだい?」
ロキおじさんと触れているところに違和感がある。
吸盤のようなもので引っ張られるような、何かが反発し合っているような、そんな感じだ。
「変な感じがする」
違和感はどんどん強くなっていて、ついに不快感を覚えるまでになった。
「これが魔力と呼ばれるものだよ」
「これが…魔力」
「そう。魔法使いは魔力を基に魔法を使う」
魔法使い。シトルがそうだった。魔力。魔法。まるでファンタジーだ。
ついに不快感が無視できないほどになりそうな所でロキおじさんは手を離し、同じ事を姉さんにも行った。
「さて、肝心の魔法の使い方だけど、基本的には想像と意志だ」
ロキおじさんは真剣な表情をしている。これは、しっかりと聴くべきところだ。
「自分がどんな魔法を使いたいかイメージし、それを現実に反映するように意識する。
言葉にすると簡単だけど、実際にやってみるとそうでもない。
想像と意志、どちらが欠けても失敗する。
そして、そのどちらも揃っていても魔力が無ければやっぱり上手くいかない。
これは慣れの問題だ。何度も魔法を使い、反復する。それを繰り返すことで想像と意志は鍛えられる。
ここまでは良いかい?」
僕達は頷く。
「魔法には欠点というか、ある特性があってね。基本的に魔力は魔力を持つ同士で馴染まない。さっきやったようにね。
だから魔法も魔力からある程度変化したとは言え、その効果は実物ほどじゃない。
例えば、同じ大きさと威力の火の魔法と自然の火では、後者の方がより多くのダメージを人に与える事ができる。
そんなわけで、魔法使いは物理攻撃で、特に近接で狙われたりする」
「遠距離はないんですか?」
「弓とかは動きも直線的だから、普通に魔法でポイされちゃうね」
考えればすぐ分かることなのに、やらかした。何でも聞こうとするのは良くないって言ってたのに。恥ずい。
「別に気にしなくてもいいよ。何も考えないのも良くないけど、わからない所を聞けるのは真剣に取り組んでる証だからね」
「…ありがとう」
「どういたしまして」
迂闊にも、ちょっとかっこいいと思ってしまった。
「まずは自分がイメージしやすいもので練習することだね。
…うん、とりあえず魔法はこの辺でいいかな。
何か聞きたい事はあるかい?」
話の抑揚というか、間の取り方がこの人は上手い。耳にすっと入り込むような感じだ。
「じゃあ次は聖天法に行こうか」
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