第21話 聖天法

「聖天法ってたしか…教会の人が使うやつじゃなかったっけ」


 高額のお金を払って治療をしてもらったりすることができると聞いたことがある。


「そう。具体的には、女神リースを崇めているリース教会が、だね」


「それって、教えてもいいの?」


「本当はよくなかったりするから、人前で使うのはおすすめしないよ」


「……」


 大丈夫だろうか。今さらだけど、少し不安になってきた。


「聖天法は主に護り、加護、癒し、浄化に特化したものでね、これは魔力を必要としない。必要なのは原則、祈りと、そして願いだけだ。


 相手を想って願い、女神リースに祈りを捧げる。だから対象によってその効果は大きく変わってくる。


 例えばなんだけど、自分の家族と、今あそこにいる人達、どっちが大事かい?」


 ロキおじさんはアダハ森林に向かっていく冒険者パーティを指差した。


 決まってる。


「リン姉さん」

「レン」


 同時だった。


「即答だねえ」


 ニヤニヤしながら見てくるロキおじさんは完全に楽しんでいる。気持ちは分かる。僕は口元を手で隠した。


「聖天法で怪我を治そうとした時、より想いが深いほど効果が高まる。

 だから聖天法があまり効果が見込まれないとすれば、まあ、お察しの通りだよ。

 これも反復することが重要だ。人の想いも当たり前になったり、離れて時間が経ったりすれば薄れていくからね」


 そうだろうか?姉さんがいることを当たり前だと思ったことはないし、

 それって無理矢理、努力してどうにかなるものでもない気がする。


 ロキおじさんは苦笑いして言った。


「君達は環境もあるだろうけど、それでもそうならないのは珍しい。普通はどちらかが破綻する。あそこで暮らしていればね」


 ふとナックのことを思い浮かべたけど、それとこれは違うだろう。


「祈りはいつも教会でやってるのと同じだ。

 最初の頃は色々と雑念が入ったりするものだけど、徐々に余計なものが抜け、ただ女神リースに気持ちを向ける。これは重要なことだから覚えておくようにね」


 いつもやってるように。いざ言われると難しいかもしれない。いつもってどんな感じだったっけ…?


「後は魔法も聖天法も集中力がいる。だから他の事に意識が向き辛くなるから注意すること」


 なるほど。だから魔法使いや神官は後方で守られていることが多いのか。


「長々と話してるけど、後半分くらいだから頑張ってくれ」


 あと、半分もあるのか。覚えきれるだろうか。いや。覚える。覚えなきゃいけない。

 いざという時に後悔しないようにするために。



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