第19話 遠くの話
人が通らない狭い路地を足早に駆けていく。
可能性は低いとは言え、冒険者で稼いでる僕を狙う人がいないとも限らない。何度も踏み締め、踏み固められた固い土だけが広がる広場に出る。
控えめなシンボルが三角の屋根の天辺に付いた、キレイに掃除された白い壁の教会とその後ろに聳え立つ高い城壁。
何度も通い、何回も見た光景だ。
あと何回この景色を見ることになるだろう。
城壁の中で暮らす事になればここで食べる事はおそらく無くなる。仕事の帰り道に寄ることもあったりするのだろうか。でも、今と同じようには見えることはきっとない。いつか今を想って惜しむ日があったりするのかな。
冒険者になる前はあの壁の向こうなんて想像できなかった。
ここと、向こうの間に線が引かれ、住む世界が分かれていた。
あの壁の先には何が見えるんだろう
「やあやあ、久しぶりだねえ。2人とも。元気にしてたかい?」
「うわっ…と」
足音もなく近づいてきて、僕の肩に手を置いて話しかけてきた人がいた。
「ロキおじさん」
旅装束を纏った男性で、おじさんと言ったけど身体もすらっとしていて髭もなく、その見た目は若々しい。腰には剣を下げている。飄々としていて、でもどこか憎めない所がある人だった。
「だいたい半年ぶりだったかなぁ。大きくなったねえ」
「ロキさんは、またどこか行ってたんですか?」姉さんが尋ねる。
「うん。結構いろんなところに行ってきて、結構楽しかったよ」
そう言ってロキおじさんは子供ように笑っていた。
この人は旅人で、世界中を旅しているらしい。偶にどうしてか、ここの教会で祈りに来て、ご飯を食べてまたどこかに行く。最初はいきなり話しかけてきて、その雰囲気も相まって警戒していた。けど、この人は懐に入り込むのがうまい。こちらが興味を持ちそうな話をして、ギリギリ拒まない距離を狙ってくるものだから、ついつい聞いてしまう。僕に冒険者の話をして勧めてきたのもそうだ。だから憎めない。
「チビっ子はその様子だと冒険者になったね」
「レンです」
「そっかあ」
名前を何度教えても覚えてくれない。でも、ここの住民に話しかけてくるだけでも珍しいことだし、あまり会わないから仕方ないのかもしれない。
「また話を聞かせてくれるんですか?」
姉さんが興味津々に聞く。姉さんは結構好奇心が強くて、だからロキおじさんの話を聞くのをいつも楽しみにしている。
「いいよお。嬢ちゃんは楽しそうに聞いてくれるからおじさんも話すのが楽しいからねえ」
「わくわく」
「そうだなあ。いろいろとおもしろい話があったよ。新しい
ドラゴン
ドラゴンの卵が産まれ落ちて、この大陸の何処かにあるらしい」
情報量が多すぎてついていけない。
「まあ所詮は噂だからね。でも本気で探してる人もかなりいるらしいよ。なんといってもドラゴンだ。もし売ったら一生どころか子々孫々まで安泰だろうねえ。不躾な考えだけど、もし産まれたドラゴンを飼い慣らすことができたら、なんて奴も居るだろうね。ドラゴンの装備が欲しい、なんてのもいるんじゃないかな」
ドラゴンの卵って、人が持てる大きさなのだろうか
「後はちょっと微妙な話かな。北の帝国が南に南下して間にある国を侵略しようとしていて、最終的にこの国を狙ってるだとか、魔物の活動が最近妙に活発化してるとか、…教国で新しい聖女が生まれた、とか。国同士もギスギスしてるらしいからねえ。
みんな、仲良くしたらいいのに」
それだけは納得だ。みんな、仲良くできたらいいのに。というか、魔物がいるのに争うって、ちょっとやばいんじゃないか?
まあ、自分に関係あるのは北の帝国と魔物のことくらいだろう。帝国はこの王国がなんとかするのを祈るとして、魔物が活発化しているのが本当だったら大変だ。逆だったらいいのに。頼みます。魔物弱くなってくれ。お願いだから。
姉さんは興味深そうに聞いてたけど、どれも話が大きすぎてピンとこない。
あまり遠くの話をしないでくれ。近くが見えづらくなる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます