第25話 またね

 それは、6時限目の授業が終わって、ホームルームの時間までの間のことだった。皆が思い思いに喋っていてうるさく、俺達の声を聞いている人はいない。


「れん君ってさ、つまらない人間だよね」


 突然、そう言われた。


「え…?」


「つまらない」


「どういうこと?」


「何をしていてもなあなあで、だらだらで、楽しくない」


そんなこと言われても


「そんなの」


「きっと、ずっと前はそうじゃなかった。

見える世界は狭くて、小さくて、何でも新しくて、おもしろく思ってた。

どこまでも行ける気がしていた。だけど、いつからだろうね。いつからか、心が動かなくなっていた。新しいものを見ても、あの頃のように見える世界が変わることがなくなってた。


楽しい。苦しい。痛い。悲しい。嬉しい。


そう思っても、どんどん振れ幅は小さくなっていく。

いつか、感情がなくなってしまうんじゃないかって思ってしまう」


どうしたんだ。様子がおかしい。何かがおかしい。


「そんなの、わかってるよ」


「それでいいの?」


「だって……しょうがないじゃないか!」


「本当にそう思ってる?」


「…思ってる」


「私には悩んでるように見える。期待して。失望して。苦しんでる。動かなくなっていく自分を動かそうと足掻いてる。普通の人は諦めて、受け入れる。だけどれん君は、まだ踏ん切りがついてない。諦められない」


今さらそんなこと言われた所でどうしようもないんだよ。なんでだよ。そもそも。


「普通さ、そういう事って。思っても言わないだろ」


「逆だよ」


「は…?」


「どうでもいい人だったら言わない。れん君だから、大切に思ってるから、言うんだよ」


「〜〜〜〜!!」


どうして。どうして、君はそんなにも俺を掻き乱す。君といると、心が落ち着かなくなる。


「俺だって……っ」


君のことが大切だ。君がいないなんて考えられない。ずっと、俺の日常のそばにいて欲しかった。


「ごめんね。私はあなたのそばにはいないから。それに、もう、あなたには寄り添ってくれる人がいるでしょ?」




 



 「レン」



 声が、聞こえる






「本当は、私がそこにいたかったんだけどね」


 思い出した。


 生きる意味ができた


 空っぽだった自分が


 あの、果てしない、不思議な世界で


 俺は——



 「れん君は幸せ者だね」



 「…うん。本当に、そう思うよ。…沙希」



 「なに?」



  息を吸う。



 「ありがとう」


 「どういたしまして」


 沙希は優しく、綺麗な笑みを浮かべてこちらを見ている。


——好きだったよ、沙希


 今さら言ったって、遅いかもしれないけど


 「俺、行ってくるよ」


 「いってらっしゃい」


 「うん」


 「先生には、青春してきたって言っておくから」


 「なんだそれ。でも、ありがと」


 廊下を走って、校舎を出て、どこまでも進んでいく。どこまでも澄んだ、果てしなく青い空が薄れていく。

 


 夢が覚める

























 またね


 

 

 


 

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