第26話 明るく楽しく
家々が立ち並び、積み重なり、組み上がっている雑然としたこの場所は、路地の隅、その底で住む僕達に朝の光が差し込んでくることは無い。
それでも朝独特の匂いというか暖かさで薄暗い、小屋の中で僕は目を覚ました。
「誰だっけ…」
夢を———見ていた、ような
懐かしい、焦がれるような何かがそこにあって、虫食いの記憶の断片から、こぼれたものの存在の手触りを確かめるけど、触れた途端にすっと溶けてなくなってしまう。
身体を起こすとどこかしっくりくるというか、ここにある事を受け入れられているような感覚があった。
「すー…すー…」
隣を向くと姉さんはまだ寝ていて、最近成長著しいせいか、2人で横になるには少し手狭になってきていると感じる。
早朝の空気の冷たさの中、小屋の外で昨日ロキおじさんに教わったことを思い出す。
「魔法はたしか…想像と意志、だったっけ」
まずは、水からやってみようか。失敗しても危なく無いし。
水
透明で、透き通っていて、薄い水色のような、それでいてゆらゆらと内側が揺らいでる。冷たい。
指先でじっと集中していると、壊れた見えない蛇口から漏れ出るようにほんのちょっぴりだけ水滴が出てきた。
けど、それは本来の水よりも固いというか、透明感がなく、色もイメージよりも濃く均一だ。
でも、成功した。
まだまだ発動速度も、大きさも、何もかも足りないことだらけだけど。
身体能力を強化する魔法を使おうとしたけど、うまく想像することができなかった。
「もしかしたら、聖天法ならいけるかもしれない」
聖天法に必要なのは祈りと願いだ。聖天法の加護なら、上手くいくかもしれない。
いつもの教会の事を思い出して、すぐにその感覚がわかった。
祈りを捧げて、女神リースによる加護を願う。
するとどこか、身体の中で火の玉ができたような、全身が温かく、力が湧いてきて、自分の存在が少し大きくなった気がした。
軽く飛んて、バネが反発するように強く踏み込んで予想よりも高く跳べたことに驚く。
これは、聖天法の効果もあるけど
「いつもより、調子が良い?」
朝起きた時からそうだ。昨日の自分と今の自分では明らかに何かが違う。
「夢を見たことで何かが変わった、なわけないよね」
それでも、心の持ちようというか、知らぬうちに夢から影響を受けていることもあるのかもしれない。
魔法と聖天法、これからの戦闘では中核になるだろう。どちらも練習して使いこなせるようになれば、大きな力になる。ロキおじさんには感謝しかない。
「んーーー……っ」
しばらくすると、姉さんが伸びをしながら出てきて、まだ眠そうにしながらもおはよう、と言った。
「おはよう姉さん。いい朝だね」
「そう? うん、そうだね!」
不思議そうに首を傾げて、それからぱっ、と明るく笑って答えてくれた。
今日も明るく楽しく生きていこう
いつもの僕らしくなく、だけど自然とこう思う自分を受け入れることができていた。
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