第33話 白い少女
「ーーーー」
その少女は白かった。
まるで空間から色が抜け落ちてしまったかのように、白い。
色白とか美白とか、肌の色がきれいという意味ではない。
見える肌も、長い髪も、感情の見えない目も、着る服も、履いている靴も、身に付けた剣も、なにもかも、すべてが白い。
異常だ。
頭の天辺から足の先まで、どこから見ても目を奪われる。
人を造る存在がいたとして、完璧な身形ができたのに色付けだけ忘れてしまって。
それが却って人を越えてしまったような。
深く、黒く、暗く、昏いそれが反転した、
純白のブラックホールのように目が離せない。
冷たい。
塵や埃が全くない。
少女を美しいと感じるには、
人の感性の許容範囲を超えていた。
知らない感情が止めどなく溢れて来る。
あれは。
あの白い少女は、はたして、人なのだろうか。
少女が音も無く進み出ると、海が分断されるように群衆が割れ通り道ができていく。
彼らは、それが自然の摂理かのように身を引いていた。
「……リリエール・フォン・バルタザール」
誰かが呟いた。
「…リリエール?」
自分の口が、勝手に動いていた。あの少女の名前だろうか?
「英雄、ジーク・フォン・バルタザールの愛娘にして歴代最高の才媛と言われ、父と同じく第一騎士団に所属し、片手間でやっている冒険者のランクは……」
話していた声はルインのものだった。
いつもの落ち着いたものではなく、震えている。
「…Bランクだ」
ひゅ、と息を呑む音がした。誰のものかは分からない。
ルイン達がパーティで何年もかけてやっと上がったのと同じ、Bランク。嘘だろ。
ルインの声には諦念が宿っていた。
その目に浮かぶのは嫉妬ではなく人ではない、理解できないものを見る畏怖があった。
レンは吸い込まれるような錯覚を覚えながらもその場を動く事が出来ないでいた。
近づけば、あらゆるものの緻密なバランスで成り立っている彼女を失ってしまうような気がして、ただ少女が歩く姿を目に焼き付けていた。
向かった先は受付で、対応しているのはリズだった。リズは目の前にいる少女とも変わらずに接している。
あまりにも現実離れした光景だ。
少女の輪郭と線と動きだけが彼女が生きていると実感する手掛かりになっている。
そうでなければ、真っ白な人型の何かが事象として現れているとしか思えない。
白い肌、白い髪、白い目、白い服、白い靴、白い剣、白い、白い、白い、白い、白い、少女
どこまでも白く、ユメのような少女
息一つ、瞬き一つしたら、少女は消えてしまうのではないか
その恐怖に呼吸も忘れて、見つめ続けている。
それでもふっといなくなってしまいそうな儚さがあって、それがたまらなく、怖い。
あの白い少女は、はたして、存在しているのだろうか
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