第9話 お祝い
「これがギルドカードか…」
冒険者の本登録が完了し、渡されたカードは灰色でクレジットカードのような見た目をしていて、鉄っぽい感触なのに何故か軽かった。
「これも一応身分証になる。Gランクだとあんま意味ないけどな。無くしたら再発行に一銀貨かかるから気をつけろよ。」
「わかりました」
一銀貨は銅貨百枚だ。無くさないようにしないと。
「今日はなんか依頼でも受けるのか?」
「いや、明日からにするつもりだけど。」
「そうか。じゃあ明日からだな。しぶとく生きろよ。ルーキー。」
そう言ってくれた。意外と面倒見のいい人なのかもしれない。これからも色々と教えてもらいたいし、受付に来た時にはこの人に担当してもらいたい。
礼を言って冒険者ギルドを後にし、家に帰ると、姉さんがいた。
「あれ、姉さんお仕事はどうしたの?」
「レンが今日冒険者になるって言ったら、早めに上がっていいって言ってくれたの」
「へえ、ログ爺さんが…」
「うん、この前もね。いつも頑張ってるからって、少しだけお金を多めにくれたの。どうしてだろう?」
姉さんはうーんと唸ってる。たしかに、前まではそんな事なかった。何か企んでるような感じでもないけど。これはどういうことだろう?
「姉さんがいつも頑張っているから、じゃないかな。ほら、ずっと毎日続けていたし。」
実際、地道な作業らしく、姉さん以外に長続きしている人はほとんどいない。
「そっかー。だったら嬉しいな」
そう言って姉さんはニコニコしている。本当に嬉しそうだ。そうしてあっ、という顔をした後に両手をパチンと合わせて、
「そうだ。今日はご飯いっぱい買ってきたから、お祝いにしましょう」
「やったあ。楽しみ」
その日のご飯は豪華だった。硬くないパンに、ちゃんと味がするスープ、サラダとベーコンもついてきた。本当に美味しくて、おいしい、おいしいね、って言いながら食べた。楽しい食事の時間で、幸せな時間だった。
夕飯を食べて一息ついたところで、
「そういえば、姉さん。僕のお金を預っておいてよ。」
「なんで?」
姉さんは少し顔を固くした。
「…?そりゃあ今日のご飯とかで姉さんが持ってるお金結構減ってるでしょ?それに姉さんだって買いたいものとかあるだろうし。」
「ダメ」
はっきりとした口調だった。
「ダメだよ。それは。ダメ。絶対にダメだから。」
こんな頑なな姉さんも珍しい。持ってるお金を一纏めにした方が効率が良いと思っただけなんだけど。
「どうして?」
「だって、それはレンが自分で、頑張って稼いだお金でしょう?ちゃんと自分の為に使わないと。冒険者って、いろいろとお金が掛かるんじゃないの?」
たしかにそうだ。冒険者は金が掛かる。装備とか、全部揃えようとしたらかなり大変だ。
「それなのに、わたしが使っちゃって、それでレンが危険な目あったら、どうするの?いやだよ。そんなの。そのお金は、レンが自分で、管理しなさい。いい?」
一応、理解はした。だけどそれって意味があるのだろうか?自分で稼いだ金を自分の為に使う。姉さんは正しいことを言ってる。けれど、納得が出来ない。
「それなら、せめてご飯代くらいは出させてよ。最近すごく腹が減りやすくてさ、いっぱい食べたいんだ。だから、自分の為に、そのお金を使いたい。姉さんの分のご飯も、別々にするのもアレだから。そう、ついでに買うってだけで。それくらいはいいでしょ?お願い」
姉さんはすごく悩んでじっとしている。
「ちゃんと装備とかにも使うし、危ないことはしないから。」
そして姉さんはしばらく葛藤するように考え込んだ後、はぁ、と息を吐いて
「まずは自分を第一に考えること。いい?」
「わかった」
それから、苦笑いを浮かべて
「なんか、レンって、結構譲らないところあるよね」
「うん。まあ、そういうところもあったりするのかな……?」
どうなんだろう。自分でも、あまり自覚はないけど。
「そうだよ。何年も見てきたんだもの。それくらい簡単にわかるよ」
お姉ちゃんだもの、と自慢げにいう姉さんがなんだか微笑ましい。
姉さんを見てると、明日も頑張ろうって思える。
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