第35話 ロスト

パパとママ、それからゼシリオおじいちゃん。


とそれ以外。


それ以外はみんな、白。


みんなは私を白いと言うけど、あなたたちだって白いじゃない。どこが違うの?

 

自分の事を棚に上げて、他人のことばかり。

きっとみんな目を逸らしてるだけ。


だから私は気にしない。

気味が悪い。

だから何?

美しい。

パパとママの子供なんだから当たり前。

歴代最高の才。

別に欲しくなかった。


みんなつまらないことしか言わない。同じことばっかり。飽きないの?


別に最初からこうだったわけじゃない。嫌なことを言われたら傷つく。褒められたら嬉しい。


この身体になってから変わった。

ちょっと色が変わっただけなのに。


メイドさんも執事くんもどこかよそよそしい。


パパとママはときどき申し訳なさそうにする。そんな顔見たくない。


べたべたと触れられるのは好きじゃない。


だけど猫みたいに触ろうとしてくる人がいる。


うっとうしい。


天使だとか女神だとか言って崇めてくる人がいる。


じゃま。


そう思ってたら、真っ白になっちゃった。


そうだ。


みんな白くなればいい。


そうすれば、みんな同じになる。


だけど。だけど。


それでいいの?


パパのチクチクする赤い髪も、ママのサラサラした金髪も、ゼシリオおじいちゃんの灰がかった白髪も、どれも好き。


なくなったら、きっと寂しい。








よわっちいなあ。


その男の子は私と同じくらい小さくて、ひとりぼっちだった。


キョロキョロしてて、余裕がなくて、チョコマカしてる。


こっちが心配になるくらいギリギリで、イライラする。


そんなによわいならやめればいいのに。


いつか死んじゃうよ?





彼が魔法使いの女の子を助けた。


オークを倒して、その子にやさしく声をかけている。


よわいくせに。


いいなあ。


私もあんな風に助けられたい。


そんなのむりか。





なにあれ。


助けてもらったのに、たいど悪すぎ。


なんで言い返さないの?


むかつく。






彼はゼシリオおじいちゃんに褒められてる。


剣のアドバイスまでしてもらってた。


おじいちゃんの指導はみんなうらやましがるのに。わかってるのかな。


おじいちゃんは楽しそうだ。


ぜんぜんだめなのに。


見てて言いたくなってしまう。


ああもっとこうすればいいのに。





黒い棒を持ったまものと、おおきいまもの。


これは彼じゃ倒せない。


あとから出た人たちも苦戦している。


見ると彼は今にも走り出しそう。


やめてよ。死んじゃうから。


しょうがないなあもう。いくか。





彼はおどろきの表情で私を見てる。


どう。これでわかったでしょ?


よわいと殺されるんだよ?


だからやめといたほうがいいって。





あれ。


なんで上を見てるんだろう。






気づいたら空をとんでた。


わけがわからない。


ミッドナイトブルーの夜の海にきらめく星が泳いでてきれい。紅。碧。レモンイエロー。ホワイト。それぞれの色で輝くあの子たちにいつも憧れてた。


なのにどうしてだろう。


今は彼から目が離せない。


その瞳に映る夜空に吸い込まれそうになる。


彼は私を抱き締めている。苦しい。胸がざわざわする。ざわざわ?


べたべたと触れられるのは好きじゃない。


だけど嫌じゃない?


どうして?


くすぐったい。


頭は胸に押し当てられている。


心臓の音がトクトク。


私と彼、いったいどっちのかな?


彼が小さく呟く。


聞こえない。


でも、悔しくてたまらないって顔をしてる。


もっと見ていたいけど、このままじゃ彼と一緒にガブリされてしまう。


それも嫌じゃない?


これでロマンチック?


いやいやこういうのはそう、もっと段階を踏んでからじゃないと。


もったいないなぁ。


地上にとどくまであと何秒?


それまでは彼を独占してやろう。



だから。




















消えてロスト

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