第14話 騙された方が悪い

ポーターとして活動を始めて二週間、なんとか付いていくだけの体力がつき、少しずつ周りの様子を見る余裕も出てきた。


彼らから学ぶことは多い。なんと言っても連携だ。パーティでのハンドサインを用いて瞬時に動き、ときに目線のやり取りだけで意思疎通をこなす。1人が隙を作ったとき、そこに吸い込まれるようにもう1人がすでに攻撃しているのを見た時は気持ちが良かった。


個々人の実力も高い。相手の癖を見抜き、最小限の動きだけで相手を殺すか、または無力化していく。視野が広く周りも見れる位置取りをしてあり、とにかく無駄がない。


雰囲気もいい。長く続けてきてモチベーションを保つ方法を熟知しているのか、雑談などを挟んで適度に気を緩めている。


それぞれのパーティに持ち味があり、そのあり方は多種多様だ。





「初めまして、レンといいます。Fランクです。」



「おいおい、お前ホントにポーター出来んのかよ。まだガキじゃねぇか」


「こっちは子守を引き受けた覚えはねぇんだがなぁ」



「はあ……」


このタイプは初めてだ。


こういう時ってなんて言えばいいんだろう。


すいません。ガキで。別に謝ることじゃない。

ガキですが何か?イキってる人みたいで無理。

やめときますか?うん、これはなかなか。



「やめときますか?」


「……いや、もう一度探すのも面倒だ。お前でいい。足引っ張るなよ」


…嫌な予感がする。やめとくべきか。いや、ポーターは余程の理由が無い限り断ることができない。やるしかないのか。



「…お願いします」


結局、僕は引き受けてしまった。





最初は問題なかった。



彼ら2人の後ろをついて行き、荷物を入れたり出したりするだけだった。



しかし



「あの…ここって大分予定よりも奥の方ですよね」



「黙ってついてこい」



2人は本来狩りをするはずの場所を通り過ぎ、どんどん前に進んでいった。


もう、既に自力で帰るには危険な場所まで来てしまっている。振り切って帰るべきか。彼らが契約を反故したといって、どちらが信用されるだろう。わからない。



彼らの2人のうちの背の低い方、スミスが急に立ち止まった。


「止まれ」


「どうした?」


「あそこにいる」


なんだ。あそこって。何がいる。もしかして、最初からここまでくるつもりだったのか。


鹿……だと思う。鹿の群れだ。その群れの中心に、一匹だけツノを持つ奴がいる。そいつのツノは枝分かれしていて、黒い。真っ黒だ。


「俺たちはいってくるから、ここで待ってろ」


2人はそういって鹿の群れに向かっていった。


鹿たちは動かず、じっと2人を見ている。2人は群れの真ん中に向かって進んでいく。ツノ持ちの鹿に向かって。


2人のうちの背の高い方、ルーテが周りにいる鹿を追い払おうと剣を振った時、彼らは動き出した。


ピャァァァァ


ピャァァァァ


鳴き声を上げ、森の奥へ一斉に駆け出す。速い。スミスとルーテが追いかけようとする。嫌な予感しかしない。何か、手を出してはいけないものに手を出してしまったんじゃないのか。


呆然とそれを見ていると、スミスとルーテの2人が引き返してきた。まるで追いかけられているかのような、そんな様子だ。


「くそっ、あんなやつが出てくるなんて聞いてねえぞ!」


「いいから走れ!すぐそこまで来てる!」



その瞬間考えるよりも先に逃げ出していた。

しかしスミスとルーテ、あいつらが僕の方に向かってきて、そして追い越していった。


後ろにいたのは熊だった。でかい。でかすぎる。あんな大きい生き物初めて見た。


四つ足で向かってくる熊は家みたいな大きさだ。立ったらもっとすごいだろう。熊は進路上にある木を吹き飛ばしながら来る。というかむしろ木に衝突するごとに加速していってる。


進路を変えても、熊はこちらに向かってくる。

食糧が入ったバックを投げても、踏み潰して見向きもしない。




最悪だ



そう思った。あれは覚悟とか、そういうのでどうにかなるもんじゃない。今の自分じゃ絶対に敵わない。

 

スミスとルーテ、アイツらは許さない。いつか後悔させてやる。


最初から、いざというときの囮として使うつもりだったんだろう。僕みたいな人権が保証されていない人間ならなおさら都合が良かったに違いない。


騙された方が悪い。お前も運が無かったな、なんて今頃思っているのかも知れない。


ふざけるな



そう、思っても、どうにかなるものではない。熊とぶつかって飛んできた木に押し潰され、下敷きにされてしまった。


熊がその前足を振り下ろそうとしている。



僕は、ここで死んでしまうのだろうか

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