第17話 願うことだけ
改めて決意した
きっと最近の僕は弛んでいた。ランクが上がって装備と体力が向上したことで強くなった気でいた。たしかに成長したが、そんなのは関係ない。
自分の実力に合わせた困難が来てくれる程この世界は甘くないんだ。
まだ自分でなんとかなっているけど、いつどうなるのかはわからない。現に今の僕よりも遥かに強かっただろう昔のナックでさえ、一度の判断ミスですべてを失った。
強くならなければならない
まずはDランクになることだ。城壁の中と外じゃ安全性がまるで違う。そこが最低ラインだ。
後は姉さんと安心して暮らせる宿とかも探しておきたい。
ふとナックの事が気になった
「どうした?」
「いえ、ナックさんは、その……」
「敬語はいい。俺のことも気にするな。これは俺の問題だ」
「……わかった」
ナックはどうやって生きているのだろう。
方法じゃなくて、今のナックは傍目から見たら普通の将来有望な冒険者パーティの一員だ。
あれだけのことがあったのに。これは普通のことじゃない。何か変化があったのだろうか?
「そうだ。お前はまだ弱い。どうにもならない時もあるだろう。そう言う時は俺を呼んでくれていい。力になってやる」
「……ありがとう」
そういえば、奴隷狩りはどうだったのだろう。奴隷狩りがいたと言うことはナックの妹を攫った奴がいて、奴隷にして売った奴がいて、買って、殺して捨てた奴がいる。
そいつらはどうなったのだろう。国によって処罰された?ナックが皆殺しにした?それとも、まだ生き延びている?
ナックは何も言わなかった。これはどっちなんだ。もしかして、ナックはそいつらを探そうとしているか、もしくは当たりをつけていて殺そうとしているのだろうか?
視線を感じて目を向けると、目が合った。
冷たい目だった。どこまでも深い絶望と底なしの闇を感じさせる、堕ちていくような哀しい目でこちらを見つめている気がした。
———踏み込んでくれるな
そう言われた気がした。
やめておこう。これはナックが言った通り気にすることじゃない。少なくとも、今は。だけど頭には入れておく。いつかこの情報が役に立つ時が来るかもしれない。そんなことは無いといいけど。
もう一度お礼を言い、踵を返す。そろそろ帰らないと。いつもよりも遅いから姉さんが心配しているかもしれない。
駆け足で去っていく小さな少年の背中を見送る。
体格も、性格も、年齢も違うあの少年は、どこか自分と似通うところがあった。
姉のために必死に冒険者をしているそのありさまが昔の自分を見ている気持ちになり、あの二人に貶められ、怒りと絶望に染まった姿にかつての自分を重ねた。
気づいたら体が動いてた。
あの二人に苛立ったのもあるが、あの頃のどうにもならなかった自分を壊したかった。
礼を言う少年はまだ何も失っていなくて、どうしようもなく弱かった。
そのことに羨望と苛立ちを覚えて、自分の胸の内をぶつけてしまった。パーティのメンバーにも話さなかったのに。
長々と話し続けてしまった。
脈絡はなく、わだかまる気持ちを吐き続ける自分はどうだっただろう。きっと迷惑だったに違いない。
俺はおそらくあの子を下に見ていたのだろう。
誇れることは何も無いのに、あの喪失を知っている事で世の中を知った気になっていた。
俺は愚かだ。
けれどあの子は、俺は間違わないと言った。
毅然とした態度でお前とは違うと言ってくれた。
少なくとも俺と同じ間違いをすることはないだろう。
俺は正しかったのだろうか。
あの子はすでにあの歳で背負うには重過ぎる程に抱え込んでいる。
ただでさえ小さいあの少年の背中に自分の想いを背負わせてしまったんじゃないのか。
かまわないから、重荷になるくらいなら捨てて欲しい。
いつか、その重みに耐えかねて、潰れることにはならないか心配だ。
その時に支えてくれる人がそばにいてくれればいい。
俺に出来ることはいざというときに力になる事と願うことだけだ。
どうか——
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