第14話
「え、おいっ、どうしたホノカ」
椎名はぐったりとするホノカに駆け寄る。
「おかしいの。いきなり相手の魔力が上がって……」
青い魔力が見えた。すたんと着地したのは青く色づけされた情報をまとう少女だった。その黒髪の冷たい表情の彼女は、ホノカと同じぐらいの年齢だった。
「誰か助けを――」
「無駄です」
少女が首を振る。
「阻害の魔力によってここには誰も入ってこられません。あなたのような関係者しか」
頭上には大きな青い輪が回転していた。ホノカと同じように魔力をコントロールできるのだ。そんな少女の瞳は冷たくも優しかった。何か懐かしいものを見ているような……。
「離れてください。この子には消えてもらいます。これが私の過去の揺らぎの原因」
少女が魔力で構築された弓を構える。そして魔法の矢の照準はホノカだ。
「やめろ!」
椎名はホノカをかばって立ちはだかる。
「どいてください」
弓を構える少女が、一瞬だけ悲しげに顔を歪めた。
「何がいけなかったんだ? 咲希といい感じになったのに」
「咲希?」
背後のホノカがきょとんとした声を漏らした。
「椎名!」
その時だった。声に振り向くとそこには咲希がいた。さらに後ろには花翠もいる。
こんな場所に花翠まで……。それよりまずい。こんな危険な場所に呼び寄せてしまった。ジャミングがあるんじゃなかったのか? 魔法よもっとやる気を出せ。
いや、咲希は椎名と同様にホノカと密接に関係する人間だから来られたのだ。
……だとしたら花翠はどうしてここに?
振り返ると、二人の登場に少女たちは石像のように固まっていた。
「あれ、この子って椎名の妹?」
あっさりと咲希が気づいて首をかしげる。
「見えるのか?」
ジャミングを破って見えるのだ。と、振り返って唖然とする。少女を覆っていた青い魔力が弱まり裸体が見えた。こいつは裸で戦っていたのかと、慌てて椎名は制服のワイシャツを脱ぎ少女に羽織らせる。
「あ、うん、妹に見えるけど。こんだけ似てればねえ」
さらに後ろにいた花翠の表情も変わっていた。彼女にも認識されている。
「椎名君には妹はいない」
花翠はクラス委員長でもありデータを知っているのだ。そんな彼女の前にボロボロのホノカと、ワイシャツだけを羽織らせた半裸の少女がいる。
……終わった。学校生活はここでエンドロールだ。浴びせられるのは拍手ではなく罵声。
「でも親戚がいたんだね」
「そ、そ、そんなに似てる?」
花翠の言葉に椎名は驚いた。
「見ただけでわかる」
あれほど暴れていた二人の少女は、借りてきた猫というか大量の汗を流す石像だ。
「ねえ、ちょっと抱きしめていい?」
なんだか咲希が顔を赤くしている。本能で娘を察知したというのか。
咲希とホノカの距離が縮まった。対面する母と娘……。
そして咲希はホノカの横をすり抜け、黒髪の少女を抱きしめた。
「……え?」
そのシーンは、椎名の思ったものとは違った。
「このかわいらしい子の名前を知りたいな」
「……ノゾミです。希望という漢字でノゾミと読みます」
咲希に抱きしめられている黒髪の少女が答える。
「ん、ん?」
そして横ではもう一組の出会いがあった。
「名前、教えて」
「ホノカ。萌えるに花でホノカ、です」
他人に興味を示さない花翠が、中腰になってホノカと視線を合わせている。
そしてホノカは顔を真っ赤にしてしどろもどろだった。
……そうか。ホノカの母親は花翠なのだ。
思い返せば瞳の色も、ときおり見せる冷たい表情も似ていた。今日の教室で花翠を見たときの既視感の正体もホノカだった。
もう一度咲希に振り返る。咲希に抱かれる少女の唇が「ママ」と、動いているのを見た。
ここで椎名はやっと気づいた。黒髪の少女は未来からやってきた咲希の娘だ。
そして二人とも自分の娘なのだと。
※次回更新は11/13です
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