第21話

 三人でそのまま道を進む。そして気づいた。二人の子供と手を繋いでいる自分の状況。


「なんなんだよこれは……」


 すれ違った通行人に微笑ましく見つめられ、椎名は赤面する。


「認識阻害の魔法を使ってくれ」


「なんでそんな疲れることしなきゃいけないのよ」


 ホノカがぐいぐい指を引っ張って不満をあらわにする。


「なんであなたがそんな感じなのです? 私も妥協しているのですよ?」


 なんなんだこれは、緩やかな拷問か?


「娘と手を繋げてうれしいという感情はないのですか? 思春期ですか? 反抗期です?」


「いや、なんていうか思ってたのと違うんだ。なんだったかな、スティービーワンダーの歌で子供が生まれた喜びを表現した曲があったの知ってる? なんて幸せなんだ、みたいな」


「『可愛いアイシャ』ですね」


「あの曲を聴いたとき、俺もこんな浮かれた気分になるのかなって思ったんだけど、今の俺ってスティービーのそれをすっ飛ばしたんだよな」


「曲を作りたかったのです? 音楽の成績悪いと聞いてますよ」


「なにも歌を作りたいわけじゃない。でもあの曲を知ってるのは少し驚いた」


「名曲は時代を超えて残りますからね。でも、この街はなくなりますが」


「私もママの生まれた街を守りたかったけど、都心の守備が優先されたのよね。京都に行きたかったけどずっと東京」


「京都に興味があるのか?」


「思い出に残る街は京都だって、ママが言ってたの。高校時代に行ったとか」


「未来で京都の街並みは残ってるのか。この街はなくなるのに」


「なのであそこのカフェが営業していたのを初めて見ます」


 ノゾミが指さした喫茶店は有名チェーン店だ。


「私も都心で活動していましたが、たまにこの街にも来ます。でも、ほとんど崩壊していますから。あそこはオープンテラスになってずっと閉店してます」


 あの建物がほぼ吹っ飛ぶということか。


「そこでフラペチーノ飲みながらノートパソコン広げる演出をしたかったです」


「いや、あれは演出じゃなくて本当に仕事している人もいるらしいぞ」


「でも、あの大きな神社はぎりぎり残ってたわ」


「私の未来もそうでしたよ。これがノスタルジーというやつですか」


 ホノカとノゾミが神社を懐かしそうに見つめている。……いや、そもそも生まれてもいない時代を懐かしむのは違うのではないか? なんだかとてもややこしい。

 三人で神社に入ると、ひんやりとした空気が身を包んだ。


「この神社に松がないことを知ってます?」


 ノゾミが境内を見渡し、椎名を向いた。


「そういえば見当たらないな」


「ここの神様は住む場所を八幡様に探してもらいここで待ってたんです。でもその八幡様はいい場所を見つけてそこに神社を作ってしまいまして、待てども戻ってこなかった。ですからここに神社を作ったのです。そして待つのは嫌いだと」


「だから松がないのか、って駄洒落なんだな」


「そうよ。だからこの市民はみんな待つのが嫌いでせっかちなのよ」


「いやいや、市民を巻き込むなよ」


 ホノカもノゾミもこの街で生まれる。そしてすぐに戦争に巻き込まれる。


「あのさ、未来の俺は……」


「あまり聞かないほうがいい」ホノカに止められた。


「たとえ並行世界に分かれるとしても、あなたに子供ができることは運命。そして魔法も誕生するし戦争も起こる。そして秩序を取り戻すのも決まった運命。だから小さなことを聞いたって意味がない。いつか私は未来に戻り、きっとこの記憶も薄れていく。だから知ったって意味がないの」



※次回更新は11/22です

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