第18話

咲希とのフラグ。そのフラグを目印に今度はノゾミが跳んできたというのか……。


「疑問がある」椎名は素直に質問した。


「ホノカはカナリアを介するぐらい苦労して跳んできたのに、なんでノゾミはいきなり出現したんだ?」



 そしていきなり攻撃してきたほどだ。


「私はまず魔力を過去の座標に飛ばし、さらにこの時代の物質を代替に体を構成するプログラムを組んでいましたから」


 雑誌整理を続けながらノゾミは平然と答える。


「人間の体なんてシンプルな数式で表現できますよ。それに比べると言葉や感情のデータのほうが大きい。たとえば『愛してる』のたった一言は人体を構成するデータの数十倍になるときもあります。まあ空っぽの言葉がほとんどですが」


 言葉にもデータ量があるのだ。そして同じ言葉でもその情報量が違う……。


「まあ要するに、ホノカより私のほうが時空を超える能力適性があったのでしょう」


「何よ、喧嘩を売ってるの?」


「購入します? この部屋における地位を決めてもいいですよ」


「いいわよ。私がナンバーワンであなたが二番目よ」


「待とう。そういうのやめよう」


 椎名は二人の間に割って入る。花翠と咲希の子供を争わせるわけにはいかない。それにしても部屋の主である自分の最下位はすでに確定済みなのか。


「わかってます。武力で解決するのはママを悲しませることになりますから」


「とにかく、私のママとあんたをくっつけることを優先するわ」


「私のママとです。ですからこのような卑猥な紙媒体は処分させていただきますから、ね」


 ノゾミが整理しているのは、押し入れの奥にしまっていた大人向け雑誌だった。


「検閲かよ! そういうのやめてくれ」


 必死で隠そうとしたがホノカに横から奪われる。


「へえ、こんなのが好みなのね。ねえ、この水着写真をママだと思って変なことしてるの?」


「馬鹿、やめろって……」


 地獄だ。自分の娘にこんなことを言われるなんて。


「止めましょう。なんだかとてもかわいそう」


「確かにみじめね。さすがに同情しそう」


 こいつらのマッチポンプ行為で、椎名の心は深くえぐられた。


「ていうか、さっきからなんで勝手に押し入れを整理してるんだ?」


「ここを私のプライベート空間にしようと思って」


 ……ここ? ホノカが指をさしたのは押し入れの上段だった。


「私も上段を希望します」


 椎名はぽかんとした。この二人はまさか……。


「君たち、ここに住むつもり? この監獄のような狭い部屋に三人で?」


 思わず声を漏らすと、二人の目が同時に吊り上がった。


「我慢してあげるのよ? 狭い部屋と監獄はイコールじゃないって理由だけで」


「父親の責任をなんだと思ってるのです? 脳に損傷があるのですか?」


 二人に責められ必死で首を振る。


「いや、なんか魔法的なのでなんとかなるんじゃないか?」


「全部魔法ですませようとしないで」


「養育費も払わずに、さらには責任までも放棄するとは」


「上がる仮想通貨とかわかってたら、買って相続するとか……」


「そんな問題ではありません!」


「私たちを製造した責任をあんたが取るのよ」


 ノゾミとホノカに詰め寄られる。


「じゃあ説明書とかつけてくれないと……」


「あんたが書くんでしょ! たとえそんなのがあったとしても!」


 ホノカにガクガク揺すられながら、それでも必死に椎名は抵抗する。


「いや、でもさ、現実的に女の子と一緒に住むのは問題になるというか……」


「そこは魔法があるから大丈夫よ!」


「そこは魔法ですますのか」



※次回更新は11/19です

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