第23話

 シャツとデニムショートパンツの私服姿。ファッションよりも動きやすさを優先する女子高校生。夏祭りでせっかく浴衣を着たのにスニーカーだった女。


「犯罪的なやつ?」


「変なこと言うんじゃないよ。ほら、あの俺の血縁の……」


「こんにちは、ホノカちゃん」


 咲希がにこりと笑いかけるが、ホノカはそっぽを向いている。


「おい、ホノカ」


 そっけないホノカに苦笑いしながらも、咲希は何かを探していた。そしてその視線は椎名の背後で止まった。ノゾミがうつむくようにして椎名の背中に隠れていた。


「ノゾミちゃん、こんにちは」


 咲希が嬉しそうに笑った。怒ってばかりのこの女もやればできるじゃないか。


「……誘って」


 ノゾミがもごもごと何かを呟いている。


「ママをデートに誘ってください」


 背伸びをしたノゾミが耳元で囁く。


「そういう介入はいけない。今日は帰るわ」


 ホノカが強引に椎名の手を引っ張る。


「さっきと言うことが違うじゃないですか」


「それはあんたよ」


 ノゾミとホノカがひそひそと罵り合っているので、椎名は話題を変えた。


「それより、咲希は何してんだよ」


「関係ないだろ。……いや、えっと」


 ノゾミの前だからか、咲希にはいつもの勢いがない。


「花翠と買い物に行くことになってるの」


 ホノカの瞳孔が一瞬で開き、ぐいっと胸倉を引っ張られる。


「デートに誘いなさい」


 こいつはいきなり裏切りやがった。


「さっさとディナーに誘えって言ってんの」


 ホノカに恫喝され、椎名は仕方なく咲希に話しかける。


「あのさ、缶コーヒーでもおごろうか?」


「なんでそんな安いのですか。もっとちゃんとなさい」


「いや、いきなりデートとかあれだろ」


「なにもジェシカ・アルバを誘えと無理を言ってません。未来の妻を誘うだけなのです」


 ノゾミが耳元で囁きながら憤慨している。そんな横で咲希がくすっと笑った。


「よかったらみんなで遊びに行く? 花翠もくるし、ホノカちゃんに会いたがってたよ」


「そこまで言うならぁ、付き合ってもいいけどぉ……」


 不貞腐れたように言いつつも、ホノカのポニーテールがぴょこんと揺れた。

 そんな様子を椎名がじっと見ていると、ホノカが目を吊り上げた。


「魔力を上げるためよ。とにかくどこに行くか決めなさい」


「そうです。せっかくなのでみんなで楽しめる場所がいいでしょう」


 ホノカとノゾミに詰め寄られ、椎名は咲希に向き直る。


「なあ、咲希はどっか行きたいところは――」


「あんたがびしっと決めなさいよ」


「そうですよ、そういう時は男性がリードするのです」


 なんだか二人は必死だ。本当に魔力回復のためだけなのか。


「下品な欲求が透けて見える場所は駄目よ。家族連れとかもいる平和な雰囲気があれば相手も油断するから」


 油断だとかこいつの頭は戦いばかりだ。


「生き物とかいる場所はどうでしょうか。日曜日を感じられる緑の多い場所がいいです」


 なんだか要望が多い。まとめると動物園とか水族館となるが、動物園は多摩の辺境でここから遠い。水族館も品川まで出るのは少し面倒だ。


「平和でいてスリリングな感じ」


「あまりデートといった感じはやめましょう。段階を踏む必要がありますから」


「それでいて近場でおいしいご飯が売ってる場所」


 そんな場所が存在するのか。いや思い当たる場所が一つ……。



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