第27話

 三人は暮れた街を歩いていた。

 咲希と花翠とは競馬場で別れ、椎名たちは競馬帰りの人々の流れにのって進む。

 ノゾミは結局咲希に買ってもらったキーホルダーを大切そうに持っている。引退したダイアモンドアイのキーホルダーはセールで安く売っており、ノゾミが遠慮がちにせがんだのだ。

 一方のホノカは白いハンカチを握っている。花翠にべちゃべちゃの汗を拭いてもらい、そのままハンカチを貰ったようだ。

 横に馬頭観音が見えた。命を落とした馬を供養する場所だ。冷酷な血のレースに敗退したサラブレッドたち……。


「ん、どうしたホノカ?」


「ちょっともたれてる。愛が多すぎたかも」


「それは胸焼けだな」


 花翠の弁当を食べすぎたホノカが胸を押さえているので、椎名たちは人の流れから外れた。

 塗装のはがれた自販機で烏龍茶を買ってホノカとノゾミに渡してやる。自分は缶コーヒーを買い、プルタブを開けて一気に飲んだ。


「なあ、俺は思ったんだ」


椎名はしっかりと二人に向き合うことにした。


「お前たち二人が生まれる未来は考えられないのか? 運命があったとしたら変えられないのか?」


 どちらかの未来が消えるという事実を受け入れるのはやはりつらい。


「未来は決まっているのです」


 ノゾミはキーホルダーを眺めながらはっきりと言った。


「未来は大きな川の流れのようなもの。そして大きな流れはすでに決定づけられています」


「魔法が生まれるとか、戦争が起こるととか?」


「決定された運命というのは魔力で解明されています。ですから私たちがこの過去に来て何をしようとも、魔力が誕生し戦争が起こることは決まっています」


 運命などというあやふやな存在が解明されているというのか。


「魔法で観測できるのです。それをフェイト、Fポイントと呼んでいます」


 フェイト。運命ということか。未来へと流れる川が必ず通る場所。


「魔法を使えるのは私のような少女ですが、それを研究する機関もありましてね、魔力の観測を行ったのです。そしてこの時代から未来に向かってFポイントは二つ存在します」


 ノゾミは指を二本立てた。


「まずは魔力が誕生すること。それはもう決定されています」


 少女たちに発症する魔力。そして世界は混沌へと向かうことになる。


「そして私のように魔力をコントロールできるものが戦い、そして世界に秩序をもたらすこと。それもFポイントです」


 混沌の世界に秩序が戻るのも決まった運命なのだ。

 そしてノゾミは人差し指を椎名に向けた。


「そしてFポイントとまではいきませんが、それに近いポイントもあります。その一つが、あなたに子供が生まれること」


 自分に子供が生まれることが、世界の運命を変える大きな事象となりえるのか……。


「現在から私が跳んできた未来までの時間は、必ずそ二つのフェイトポイントを流れますが、あなたに子供ができる準Fポイントもほぼ通ります」


 ホノカに向くと、彼女もうなずいた。


「……つまり今私たちがやってる争いは、この世界にとっては意味がないの。だって結果は決まってる。その未来にどうやって行くかを決めているだけ。車で行くか電車で行くか、ただそれだけのお話」


「待て、それよりも、俺がそんなに世界の運命に関わっているのか?」


 自分の子供がそんなに重要だというのか。


「魔力をコントロールできる存在は希少。本当に少ないの」


 ホノカが右手を開くと赤い光が生じる。


「それで魔力が少しずつ解明されていく。私は魔法の力で戦い暴走した少女たちと戦い駆逐していく。並行して魔力の謎を調べるのだけど、どうも血に関係すると。……そう、私はあなたの子供だったからコントロールできたと」


「どういうことだ?」


 自分の血にどういう意味があるのだ? こんな平凡な人間が運命を変えるというのか? 自分が他人より優れているはずがない。逆に劣っているというのに……。


「……あの事故とか関係あるのか?」


 考えられるとすれば両親を失ったあの事故……。



※次回更新は11/28です

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