第16話
「いやあ、やっぱり夢じゃないんだよな」
部屋に戻った椎名はため息をつく。もともと狭い部屋がさらに狭く感じる。
「私が上よ」
「あなたが下です」
「なあ、喧嘩をするなよ。どっちが上とかやめろ」
上下関係を決めようなど、こいつらは犬か。
「喧嘩ではなく議論です」
ワイシャツを羽織っただけのノゾミが言った。
「それにしてもうまくやったね。なかなかいい雰囲気だったじゃない」
こちらを向いたホノカがにやっと笑った。やはり学校までつけてきていたようだ。
「……会いたいの」
ホノカがいきなり色っぽい声を出して顔を近づける。
「俺にじゃないよ。それにしてもこれ、俺の三つ前の席の女の子に似てるなあ。瞳の色とか」
「その人とお前の娘だからな。ちなみにママの祖父母が欧州の人だったらしいわよ。それはともあれ、その調子でいけば私の運命は確定する。……未来で会えるわ、ママ」
「いえいえ、あとは私のママと告白するだけではないですか。お互い顔を赤くして視線をずらしていたあれは、もう両想いでしょう」
ノゾミが口をはさむ。同じく椎名を監視していたらしい。
「ママは言っていました。子供のころにリンゴを取ろうと木に登って降りれなくなったと。そして助けてくれたのが王子様……」
「王子様、ね」
「会ってみればこんなんだったというか、思っていたのとは違いましたが」
ノゾミは大げさにため息をついてみせる。毒舌は母譲りか。それにしても時空を超えての母との再会は感動的だったが、父親の扱いが悪くはないか?
「とにかくさ、争いはやめろよな。部屋が壊れたら本当に困る」
こんな狭い部屋で戦われたらぶっ壊れる。
「ここ、七年後に地震でぶっ壊れるから大丈夫よ」
……そうなのか。今からでも保険に入るようじいさんに言っとくべきか。
「それについては話し合いのもと、休戦となりましたのでご安心を」
「ママに言われたから先延ばししてやるだけよ」
学校での件は、子供同士の喧嘩だとの言い訳を花翠と咲希はすんなりと受け入れた。ホノカはそのとき花翠に「喧嘩はダメ」と諭されていた。
「しかしホノカの母親が花翠さんだったとは」
「それは私のミスよ」ホノカが珍しく素直に認めた。「まさか私の父親がここまで能無しとわからなかった私のミス」
「いやあ、花翠さんのクールさとホノカが結びつかなくて」
「私だってクールよ。誰も私を笑わせることなんて、あははは! ……やめなさい!」
ホノカの横っ腹をくすぐった椎名は怒られてしまう。
「馬鹿なことしていないで、私たちにいろいろと質問があるのでは? いくら非現実的なことが起ころうとも、それから目をそらすのは違いますよ」
ノゾミは押し入れの雑誌やらの整理をしなが言う。
「わかった俺も腹をくくろう。ということで自己紹介をしてくれないか」
その言動に、ホノカとノゾミは大きくため息をついた。
「いやいや、考えてみろよ。いきなりすっ飛ばして子供ができたんだ。知らないのは当たり前だろ。この部屋の持ち主のじいさんは建設中のスカイツリーを見たってさ。建設中を見られるのはその時の人間だけに与えられたものだ。つまりお前たちが未来を知っていてもそれは結果だけなんだ。上から目線になるな」
「私はそのスカイツリーが折れるところをリアルタイムで見たけどね」
「まあまあ、そのへんで。私は久遠希望、十三歳。よろしくお願いします」
ノゾミが大げさに頭を下げてみせた。大人びているが十三歳だったのか。
「私は高坂萌花。十三歳」
「へえ、偶然にも同い年なんだな」
椎名の前で二人が呆れたように顔を見合わせる。
「そこからか」
「そこからですね」
なんだか馬鹿にされている、ということだけは理解できた。
※次回更新は11/16です
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