第22話

昨日は、他の生徒がメインストリートいっぱいにいたから目に入らなかったが、誰もいないと桜の存在感が際立つ。両側から私たちを手招きする様な形で咲いている。

「すごーい!こんな広い道に誰もいないよ。」美亜はそう言ってまた写真を撮った。誰もいない時間に寮の外に出て遊んでいる。ちょっと悪いことをしてる気がしてドキドキした。メインストリートの道は広くて真っ直ぐだ。そして校舎に向かって歩くと、左手側の桜並木の後ろに芝生とイス、テーブルが見えた。 

「ここの桜の間を通ってあの芝生の方から体育館、陸上トラック、部室棟を通って帰ろう!」地図を広げた美亜が言った。

「ええ、そうしましょう。」


今何時なんだろうと思い、スマホを見ると、もう6時だった。どうりでもう空が明るいわけだ。というかゆっくりおしゃべりしながら歩いたにしても学院を半周するだけでこれだけかかるの?!聖蘭やクレアもお嬢様だし、お嬢様学校ってだけあって広いなぁ。それにクレアがお嬢様なのは知らなかった……。小学校の途中から日本に来たとは言ってたけど、首相とパーティーって相当なお嬢様じゃないとできないよね。本当にこの学院って、すごい人がたくさんいるんだろうな…。もしかして天音先輩もすごいお嬢様なのかな。先輩、髪の毛サラサラのふわふわだし、こう、品があるし、後継者がこんな普通の私でいいんだろうか。もっと華のある人がいいんじゃないのかな。


「お…真緒?」聖蘭に呼びかけられていた。

「へ?何?」周りを見ると、青々とした芝生の上にいた。何セットかロココ調の椅子と丸テーブルがあった。

「呼びかけてるのに上の空だから。」

「あっ!ごめんね!ちょっとぼーっとしちゃって…。」

「見て。あそこ、ちょっと丘みたいになってるでしょ。」

「うん。」芝生のずっと先に盛り上がった場所が見えた。

「あそこは、『百合の丘』っていう場所。生徒がつける香水の花は全種類この学院内にあるけど、特に六花はその花だけが植えられているエリアがある。薔薇はさっきのバラ園。桜はメインストリート。そして百合があそこの丘。ジャスミンは陸上トラックの外側に植えられているし、蝋梅は梅花棟の奥にある。真緒の金木犀はどこにあるかわかった?」

「え?金木犀?ここに来るまでに?初めは暗くて全然見えなかったからなぁ……。うーん……わかりません!」

「はーい!美亜わかった!」

「美亜が答えちゃだめ。じゃあ正解は後で見よう。」

「はーい。」

「え〜じゃあ耳元で言うから!」

「もう。…わかった。」美亜が背を屈めて聖蘭の耳元に何かを囁いた。

「うん。正解。」

「やった〜!」やっぱり美亜は観察力があるんだなぁ。私は全然わかんない。でもクレアの方を見たら、クレアも分からなそうだったから、まぁいいかと思った。私たちは体育館の裏を通って、陸上トラックの方へ歩いた。紅色に白いラインが引かれていた。トラックと部室棟は隣にあり、ちょうど寮と一列に並ぶような配置だった。部室棟は側から見るとガラス張りの小さなビルだった。寮が5階建てだから3階建てくらいの部室棟は少し小さく見える。

「ここはちょっと普通の高校っぽいね。」

「ええ。でも部室棟と寮の間に小さな売店があるみたいよ。」左手に部室棟、右手に校舎と体育館をつなぐ渡り廊下が見えた。まだ開いていなかったが小さな売店があり、その後ろに小道のある森があった。そこを出ると寮の前の噴水の広場に出た。

「おー!帰ってきた!思ってたより広かったね。」

「本当ね。もう7時を過ぎてるわ。食堂が混んでいる時間ね。」

「でもあと2時間もないうちに、体操服に着替えて体育館に集合だよね。」そしてダンスの練習!ちゃんと踊れるか心配だなぁ…。

「そう。混むのは仕方ない。体操服ってことは運動かも。食べてすぐだと苦しくなる。」

「じゃあ食堂行こっか!もうお腹も減ってるし。」

「ええ。」

「うん。」噴水のライトアップはもうなくなっていて、太陽の光を受けた水が、キラキラと輝いていた。

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