第27話

エレベーターに乗り、先輩が5階のボタンを押す。5階へ着き、先輩の後をついていく。先輩はポケットから鍵を取り出して開けた。

「どうぞ上がって。」

「はい、お邪魔します。」

天音先輩の部屋は金木犀の香りがした。

「そのドレッサーの椅子に座っててちょうだいね。」

「あ、はい。」六花になると部屋にドレッサーが付くなんてすごいなあと思った。すると、先輩はティーカップを1つ持ってきた。

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」ティーカップに鼻を近づけて香りを吸い込んだ。

「…。金木犀の香りがします。金木犀の紅茶もあるんですね。」

「ええ、そうよ。金木犀のハーブティーなの。今日は真緒が金木犀の六花になったお披露目の日だからね。特別にね。」

「そうなんですか?ありがとうございます!」口に含んだ途端に金木犀の甘い香りが頭の中にふわっと広がる感じがした。

「じゃあ、さっそくメイクからはじめましょう。」天音先輩はドレッサーのコンセントにヘアアイロンを2つさした。

「椅子をこちらに向けて座ってくれるかしら。」

「はい。」ドレッサーに対して横向きに座りなおした。そこに先輩が向かい合って座った。

「今は肌には保湿クリームだけかしら?」

「はい。そうです。」

「じゃあ下地から塗るわね。真緒の肌の色と私の肌の色が近くてよかったわ。」そう言って先輩は手の甲に下地?を出した。

「触るね。」ふわりと金木犀の香りが私を包み込む。

「はい。」先輩の手が私のおでこや頬を滑っていく。

「真緒は肌がきれいだからコンシーラーは必要なさそうね。カラーコントロールだけにしましょう。」そう言ってカラフルなパレットをだし、目の下と鼻周りに少しずつ塗った。そしてファンデーション、フェイスパウダーなどをしてもらった。まだ私はメイク初心者なので聞いているだけでそのほとんどが分からなかったが丁寧にしてもらっていることはわかった。眉毛を何かブラシのようなものがなぞった。それから目をつぶって、開けて、と何度か言われた。まぶたの上を何かがなぞって、少しくすぐったかった。先輩は時々「うーん」と悩んでいた。アイラインを引いてもらい、ビューラーは自分でやらないと上手くいかないからと言われ、まつげの生え際の皮膚を挟み込んでしまい悲鳴をあげた。それでもなんとかまつげを上向きにカールさせた。先輩にマスカラを塗ってもらった。

「最後にリップね。うーん…。どの色が1番似合うかしら?」そういって3本のリップを私に見せた。桜のような薄いピンク色、柘榴ざくろのような深い赤色、メープルシロップのようなオレンジブラウンの3本だった。ドレッサーの鏡を見ると、ブラウンとゴールドのアイシャドウが塗られていた。

「この、柘榴ざくろみたいな色のですかね。」

「わかったわ。」そう言って先輩はわたしの唇にリップを塗って指先でぼかした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る