第26話

私のドレスは柔らかなオレンジ色で、金木犀みたいな色合いだった。形はまるで美女と野獣のベルのドレスの様だと思った。胸には深い緑のブローチがついていた。すそはベルより大分短そうではあったけど。

「すごく可愛いですね!なんだかベルみたいです!でも裾の長さは大分短そうですね、みんなそうなんですか?」

「そうなの。はじめてのダンスでドレスの裾を踏んだりして転んだら大変だから、みんな裾は短めなのよ。」そう言ってハンガーラックの下から、私の名前が書かれた白い箱を出して、持っていた白いカゴに入れた。そして私のドレスをその上に入れた。



「じゃあ早速着替えましょう。」そう言って白いカゴを持った天音先輩は再び歩き出した。ステージ脇から階段を上がって緞帳どんちょうのおりたステージへあがった。ステージ上では各々が背中を向けあって着替えていた。また、椅子がいくつか置かれていて、ストッキングを履いている生徒もいた。

「あの、ここで着替えていいですか?」

「ええ、もちろん。はい。」そう言って天音先輩は私にドレスを差し出した。なんだか落ち着かない気持ちになりつつ、ドレスを手に取った。そして背中側のチャックをおろした。金木犀の香りのする制服を脱ぎ、ドレスを着る。あれ、背中のチャックが上手く上げられない…。

「先輩、申し訳ないんですけど、背中のチャック上げてもらっていいですか?」

「いいわよ。」

「ありがとうございます。なんだか上手く上げられなくて…。」

「いいのよ、私は真緒の為にここにいるんだから。」そんなことを言われて、照れてしまって何も返せなかった。

「ありがとうございます。」

「ちょっと、待ってね。リボンも結ぶわ。」

「あ、リボンも付いてたんですか?お願いします。」オフショル部分と同じシアー素材の部分があるなあと思っていたが、リボンだったらしい。ふわりと金木犀のかおりがして、リボンが結ばれる、衣擦れの音がした。



「じゃあ次はあの椅子でストッキングと靴を履いてちょうだいね。そうしたらステージをおりるわ。」

「はい。」近くにあった椅子に座った。白いカゴのなかには、いつのまにかストッキングが入っていた。上履きを脱いでストッキングを履いた。「花影 真緒」と書かれた白い箱を開けると、こげ茶色のストラップ付きのパンプスが入っていた。上履きと同じサイズのようでサイズはちょうどだった。ヒールはあまり高くなかった。

「すごく似合ってるわ。」

「ありがとうございます。」



「じゃあ下におりましょう。、真緒はヘアとメイクはやってもらうのかしら?」

「いえ、自分ではほとんどできないので花神の方に頼もうかと思ってます。」

「そうなのね。じゃあ、もしよければ私にやらせてくれないかしら。」

「え、いいんですか?お忙しいのに…。」

「いいのよ。もうほとんど準備は終わっているし、今日は六花の仕事は監督することだから、ないも同然なのよ。」

「じゃあ、お言葉に甘えてよろしくおねがいします。」先輩は満足げに頷いた。

「先にアクセサリーを持っていきましょう。」

「はい。」さっきと反対側の通路から出る。先輩は簡易的なサロンスペースを抜けていく。そして体育館の後ろのスペースで立ち止まった。イヤリングとネックレスが、まるでお店のように立てて飾られていた。ブレスレットは机の上に置いてあった。

「どうしようかしら。真緒はどれが自分に似合うと思う?」

「えーと、これとかどうですかね。」私はペリドットの宝石が付いたイヤリングを指差した。

「綺麗な色だわ。じゃあネックレスはゴールドの華奢なデザインにしましょう。これはどうかしら。」そう言って先輩が手にしたのは、ゴールドの装飾がついていないネックレスだった。

「いいですね。シンプルでドレスに映えそうです!」

「じゃあこれでいいかしら。」

「はい!」先輩は隣にあったアクセサリー用の巾着袋にペリドットのイヤリングとゴールドのネックレスを入れた。

「あの、この靴って室内用ですか?それとも外でも履いていいんですか?」

「外でも履いていいのよ。上履きと履いてきた外履きはこの袋に入れてね。」

「はい。」他の生徒もドレスを着た人から花神の方にメイクをしてもらったり、寄宿舎に戻って行っている。私たちも寄宿舎に戻った。

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