第8話

「それでは次に清淑女学院の伝統である制度について説明します。もうご存知の方もいらっしゃると思いますが、我が校は先輩から後輩に香水を引き継ぐという伝統があります。香水というのは一人前の大人になる為には身だしなみに気をつけよという我が校の教育方針からきています。我が校で受け継がれている良い香りの花の香水の種類は90種類、つまり1学年の人数と同じです。その中で特に学院創立当初から生徒に愛されてきた6つの花が六花と呼ばれており、その香水を受け継いだ生徒の事も六花と呼びます。私達は2年生の代の六花です。六花とは桜、薔薇、百合、金木犀、蝋梅、ジャスミンのことを指します。元々六花とは雪の異名です。そして、みなさんのセーラー服の胸当てにある雪の刺繍は我が校の校章です。雪の降る地域であるこの学院ならではのモチーフです。六花はこの学院の生徒会のような役割を果たします。全ての生徒の規範であり、憧れるような素晴らしい生徒であることが求められます。そして2年生がみなさんに自分の香水を引き継ぐことを決めた時、『移り香の契り』を行います。1年生の間は香水をつけることは校則で禁止されています。ですから先輩の香水の香りが移るほど側にいるという約束です。同じ香水で結ばれた縁により、先輩はあなた方ひとりひとりの規範となり、助け、導いてくれる存在となります。『移り香の契り』を結んだ先輩と後輩にも呼び名があります。3年生を天花、2年生を花神、1年生は初花と呼びます。ちなみに卒業生は頂花と呼ばれます。六花は仕事があるので、遅くても入学式から1週間後には選ばれます。他の生徒は六花の生徒が全員選ばれた後から来年の3月までに自分の初花を選びます。みなさんが2年生になると、天花の方と同じ部屋になります。また、学問や部活動で優秀な成績を納めると1人部屋を選ぶこともできるようになります。『移り香の契り』は年上と年下に1人ずつしか契る事が出来ません。それではみなさんが素敵な花神の方と巡り会えますように。これで生活ガイダンスは終わりです。今日の夕食から自由な時間に食べに来てくださって大丈夫です。何か質問がありましたら個別に来てください。」生活ガイダンスと銘打っておきながらこれは『移り香の契り』の説明会だったんだなと思った。隣を見るとクレアが納得したというような顔をしていた。すると前方から金木犀の香りがした。私が着ている制服よりも少し強い香りに顔をあげると天音先輩がいた。

「真緒ちゃん、ガイダンスお疲れ様。」

「あ、天音先輩!さっきはありがとうございました!六花ってみなさんすごく上品でお淑やかなんですね。」

「ありがとう。ところで真緒ちゃん、今日の夜ちょっと時間が欲しいんだけど、21時ごろに私の部屋に来てくれないかしら?」先輩の部屋か、ちゃんといけるかな……。

「えっと、はい大丈夫です。方向音痴なので少し不安ですが……。」

「そうなの?じゃあ5階の談話室なら大丈夫かな?椿棟と梅花棟の間の椅子とテーブルが置いてある場所だからわかるかしら?」

「はい、大丈夫です!」

「じゃあ21時に5階の談話室でね。」そう言って去って行った。

隣で聞いていたクレアが

「真緒は金木犀の六花にキープされてるのね。」と言った。

「金木犀の方が真緒以外に声かけてるの見なかった。」なんとかの方ってつけるのがどうやらこの女学院での敬称のようだった。古文みたいだなと思った。ゆったりと歩きながらプロジェクタールームを後にした。

「そうなのかな。わかんないけど……。でも六花を選ぶのは入学式から1週間後までなんだよね?」

「だからキープなんじゃないかしら。流石に初日に決めてしまうのは早計だと思われるからじゃない?」

「そうだね、よかったじゃん真緒〜」

「うーん、まだ何にも言われてないけどね……。」階段を上がって部屋に入る前、

「夕食とお風呂の時間はどうする?まだ17時前だけど。」と美亜に聞かれ、

「まだ早いかな。しっかりルールブックも読めてないから明日必要な物とか確認して、よさそうな時間に連絡するね。」と言った。

「そうだね、美亜達もちゃんと確認しなきゃだ!じゃあまた後で!」美亜達の部屋のドアが閉まった。

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