第18話

「おはよう。真緒。」

「おはよう!」クレアが着替えている間、私は髪を梳かした。学習机の上に鏡を置いて日焼け止めを塗っていると、着替え終わったクレアが

「真緒、その机、鏡ついてるわよ。」と言った。全く見当たらず

「え?どこに?」と聞くと

「ここに裏返しになってるのよ。」そう言って学習机の上の棚にあった長方形の板を上に引き抜き、ひっくり返して再び差し込んだ。そこには鏡があったのだ。

「え?!知らなかった!!確かにちょっとこの部分だけ前に出っぱってるなと思ってたけど、後ろにライトがあるからだと思ってた!」確かに鏡の部分の板だけが手前にはりだしていて、他の棚よりも幅が狭いとは思っていたけど、まさかこんな仕掛けがあったとは…!

「実は昨日、お風呂上がりにこの部屋でティーパーティーしていた時に、ガイダンスでもらった書類をみんなで眺めていてね、そこで見つけたの。部屋の備品のページに学習机兼鏡台って書いてあって、この仕掛けの写真が載ってたのよ。」

「そうなんだ!すごーい!面白いね!」

「あと、この鏡だと少し遠すぎるから机の左側に折りたたみ式の鏡もあるの。これは昨日も見えていたけれど、正直こっちの丸鏡は顔に近づけられるからアイメイクをするときなんかはやりやすいわね。」

「あ、この鏡ってこうやって出すんだ!昨日机動かした時になんかあるなって思ってたけど、こうやって使うんだね〜!」

「ええ、ホテルのバスルームにあったりするわね。」そう言って顔を洗いに行った。シンプルな机だと思っていたけど、意外と手が込んでいるなと思う。机もベットもクローゼットも明るい茶色で統一されていて、一年生らしいフレッシュさが感じられる。日焼け止めが塗り終わり、カーテンを開けると、空がかすかに明るくなってきていた。それでもまだ深い藍色の世界だった。洗顔を終えたクレアが学習机兼鏡台に座ってスキンケアをしていた。私は、部屋に元から置いてあったダージリンティーを淹れて、4人のLINEのグループで美亜と聖蘭とメールをした。クレアも準備が終わったから、そろそろ出かけようと言った。クローゼットから分厚いコートを取り出して着る。

「クレア?そろそろ行こっか。」 

「ええ。」そう答えて椅子から立ち上がったクレアは、まさに動く人形だった。薄桃色のタイツにクリーム色のリボンタイワンピースを着ていた。良家のお嬢様といった感じの清楚で上品な雰囲気だった。クレアはベージュのコートを羽織った。部屋を出て、クレアが鍵を閉める。美亜と聖蘭が小さな声で、

「おはよ〜!」

「おはよう。」と言った。

「おはよう。」

「おはよ〜。まだ外、真っ暗だね〜。」

美亜と聖蘭も既に部屋の外に出ていた。

「そうだね!めっちゃ楽しみ!」

美亜は黒のチョーカーに黒、白グレーのチェックのタイトスカート、フリル付きの丸襟に黒い大きなリボンをつけていた。姫カットとよく似合っている。

「まだ誰も起きてないみたいだし、静かに外に行こう。」聖蘭はシスターの着ているような首から肩まで広がる白い襟のある紺色のロングワンピースにモカブラウンのカーディガンを羽織っていた。襟にはフリルがついていて、お嬢様らしい雰囲気だなぁと思う。

「ええ。」それから私たちは中央階段から1階へ降り、玄関へ向かった。玄関の端の方に管理人さんのいる窓口がある。戸締まりなど、学生寮の管理は全て管理人さんがしていると聖蘭が言っていた。玄関の大きな2つのステンドグラスの引分戸を開けると、さらにブラウンの両開きドアがある。こちらのドアは寮の外観と同じように古びた色をしていた。聖蘭が内鍵を開けた。少しだけ明るくなった空は瑠璃色だった。

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