第17話
突然目が覚めた。アラームも鳴ってないし、外もまだ暗い。スマホを見ると3:48と表示されていた。楽しみにしていたから早く目覚めてしまったらしい。こういう時はいつもよりもすっきり目が覚める。早すぎたからといって二度寝をしようものなら寝坊してしまうのだ。仕方がないから静かに起き上がってクローゼットを開ける。仄かに金木犀の香りがした。あぁ、天音先輩の制服があるからか。夢じゃなかったんだなぁ。天音先輩はスカートにリボンの制服を貸してくれた。先輩も予備の制服があるくらいだから、スカーフやスラックスを持っているのかもしれないと思った。足元にひんやりした空気を感じる。窓際にクローゼットは失敗だったかもと思う。そして、オレンジ色のワイドパンツを履き、インナーシャツと白いセーターを着る。9時からダンスの練習があるので、また体操服に着替えるけど、さすがにこの時間に体操服を着るのは寒すぎる。今日はウェルカムパーティーもある。楽しみで心がふわふわしているのがわかる。少し喉が渇いていたから白湯でも飲みたいなと思った。昨日私が持ってきた保温ポットを持ち上げると軽くなっていた。私が天音先輩に会いに行っていた時にティーパーティーをしたのだろう。
静かにドアを開けて給湯室に向かった。廊下はまだ暗いからスマホのライトをつけて歩いた。思ったより近くに給湯室があって驚いた。給湯室の電気をつけてお湯を沸かす。ピーって音がかなり大きいからぶくぶくしたらすぐに止めよう。そもそもお湯を沸かすためだけに部屋を出るのは少しめんどくさいな。電気でお湯を沸かす機械を部屋に置けば楽なんだけどなぁ。今度お年玉で買おうかな…。でもこんなにたくさん茶葉があるから、結局茶葉をとりにここに来るだろうし…。そんなことを考えている間にぶくぶくしてきたので火を止めた。そして保温ポットにうつして給湯室を出た。
まだまだ暗い廊下で、スマホのライトを頼りに部屋を目指す。もはや自分の部屋がどこかわからなくなってしまったので、部屋の横に掲げられているプレートを見て自分とクレアの名前を探す。2部屋ほど他の人の部屋の表札を見た。そして、最上 聖蘭 藤田 美亜 と書かれた表札を見つけた。やった!隣の部屋だ!ほっとしてにこにこしながら隣の部屋のドアの前に行き、ライトで照らすと、花影 真緒 結城 クレアと書かれていた。音をたてないようにゆっくりとドアを開けた。
まだクレアは寝ていた。ティーカップにポットの熱湯を注ぎ、冷ます間に顔を洗った。部屋に入ってすぐには気づかなかったのだが入り口の近くに奥まった場所があり、そこに小さな蛇口があったのだ。トイレも給湯室もサロンも外にあるので蛇口が個室の中にあるとは思わなかった。白湯を飲んで一息ついた。リリリリというアラームの音にびっくりしてスマホを見るともう4時を少し過ぎていた。自分のスマホかと思いきやクレアのスマホから出た音だった。そろそろ起こした方がいいかなと思い、ベットに近づき、
「クレア、起きて!朝だよ〜!」と小声で言った。でもクレアは、可愛らしいバラ柄の掛け布団を頭までかぶっていた。クレアはマイ布団を持ってきてたのか、と思った。多分肩に見える場所をゆすり、
「クレア〜!起きて〜!散策行くよ〜!」と普通の声で言った。するとクレアがもぞもぞと動き、ぱちりと目を開けた。宝石が私を見ていた。大きな深いペリドットに引き込まれた。
私の何かがグッと掴まれたような気がした。
「お、起きた!おはよ〜」
「ん、んん〜……。」
「もう4時過ぎてるから起きて〜」
「んん。」そう言って寝返りをうった。クレアって朝弱いタイプなんだ。
「クレア、学院散策行くから着替えて〜」
くあぁぁと可愛らしいあくびをして、やっと体を起こした。
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