第10話

給湯室に入ると、既にお湯を沸かしに来ていた生徒が2人いた。給湯室と言ってもドアがないため「室」ではない気がした。IHヒーターが2口とシンク、食器乾燥用の籠、電子レンジがあった。そして棚の上にたくさんの種類の紅茶の茶葉がお洒落な瓶に詰められ、並べてあった。さらにその隣にティーポットがいくつも並んでいた。まるでファミレスのお茶だけのドリンクバーみたいだった。私と同じくらいの身長の子と、私よりも背の低い子は一緒に来たようだった。

部屋にある保温ポットを持ったままうろうろしていた。

「あの、大丈夫?」と私が声をかけると、

「お湯の沸かし方が分からなくて……。」と申し訳なさそうに言われた。ぱっと見普通のIHヒーターがあった。ただし、やかんが見当たらない。

「やかんが見当たらないね。」上に戸棚があったので開けてみるとやかんがいくつか入っていた。2つ取り出した。

「あった!はい、1つどうぞ。」

「ありがとう。ございます。」隣の蛇口からやかんに水を入れて軽く内側を洗ってからやかんに水を入れた。私が加熱し始めると後を追うように彼女達も加熱し始めた。沸騰するまで何を話したらいいのか考えていたら

「あの、お名前教えてください。」と背の高い方の子に言われた。

「あ、まだ言ってなかったね、花影 真緒です。」

「真緒さんて言うんですね。私の名前は宮之本 蘭々ららです。」

「素敵な名前!よろしくね蘭々ちゃん!」まるで歌っているような名前だなと思った。

「えっと、私は佐野 紫苑しおん。よろしくね。」お上品な令嬢といった感じのする子だなと思った。そもそもこの学院に入っている時点でほとんどが富裕層だから生徒のほぼ全員が社長令嬢だったり財閥の令嬢だったりするのだろう。現に給湯室で2人揃ってうろうろしていたのはそういうことなのだろう。私の家は中流階級で、貧困ではないが別にお金がすごくあるわけでもない。それでもこんな高額な学費のかかる学院にいるのは、特別奨学生に選ばれたから。入試の面談前に書いた面接シートにいくつか質問があって、特別奨学金制度を希望するかというのがあって、兄曰く、希望した生徒の中から選抜されるらしかった。我が校のどこに魅力を感じたかとか好きな色は何かとかよく訳の分からない質問もあった。それで私は特別奨学生に運良く選ばれて、他の学生よりも安く学校に行けることになった。制服や教科書、上履きなどの学校生活に必要なものから、宿舎での生活費まで、かなりの額がかかっていて驚いた。そして今、彼女達との生活の違いを感じた。

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