第39話
「はい、というわけで本日は金木犀の初花になった真緒ちゃんと親睦を深めたいと思います!」泉さんは天音先輩と比べると陽気な性格のようだった。こっちこっちと手招きされ、天音先輩とソファに座った。
「まずは馴れ初めとかかな?花神のみんなはレクで真緒ちゃんと会って直接聞いてるかもしれないけど天花の私達は聞いてない人も多いだろうから聞かせてほしいな。」
みんなの視線が私に集まるのを感じた。
「えっと、入寮した日に食堂で、食器を片付けようとした時に水のグラスを持った子とぶつかってしまって……。」
「私は仕事でちょうど食堂にいて、彼女だけが濡れてしまったのに相手を気遣っていたのを見て『謙虚』という金木犀の花言葉にぴったりだと思ったのがきっかけです。その後濡れた制服をクリーニングに出すために着替えの制服を貸したのですが、その時も礼儀正しいけれど好奇心が旺盛で、六花として学院全体を引っ張っていく方になる素質があると感じました。」ずっと褒められていて頬が熱くなる。
先輩方が口々に感嘆の意を述べていた。
「なんか他に質問とかある?真緒からの質問でもいいよ。」
「あの……。私もみなさんのことお聞きしたいです。」
「そうね、私と真琴さんしか知らないのよね。では天花の方から軽く自己紹介をお願いいたします。」
静かに目配せが行われているのを感じた。
「では私から!」すっと手が上がって視線が集まる。そちらを見るとセーラーの襟くらいの髪の長さの、活気に溢れた人だった。
「銀木犀の天花の
それから古谷先輩から時計回りに天花の方、次に花神の方が自己紹介をしていたが正直覚えきれなかった。
その後はおいしい紅茶とお菓子を食べておしゃべりをして、小一時間くらいでおしまいになった。いつもは夕食の時間くらいまで続けるけれども、今日は花神のみんなは初花の子を決めたいと思うからと天音先輩は言っていた。先輩の言葉通り、花神の方々は早々にサロンを離れた。残っていた天花の方々は懐かしいと口々に話していた。洗ったポットやカップを拭いていると、
「真緒」
天音先輩に呼ばれた。
「はい。」
「今週のサロンの時間は終わったことだし、天花の方々はご歓談されているけれど、サロンについて紹介しましょうか。」
天音先輩はソファから立ち上がって、部屋の隅にある棚に向かった。
「ここには寮の給湯室と同じく紅茶が置いてあるわ。コンロはないけれどケトルがあるから。今日みたいにサロンにたくさんの人が来るときは近くの給湯室を使うけれど。基本的に補充は私達のお仕事よ。」
そう言って先輩はダークブラウンの戸棚を開けた。落ち着いた戸棚の中には茶葉の入ったたくさんの瓶が並べてあった。そしてその隣にティーポットとカップがいくつも並んでいた。どれも優美なデザインだった。他の引き出しの中にはさっき食べたアーモンドフロランタンが入っていた。
「何かわからないことはあるかしら?」
「今日はたくさん来たっておっしゃってましたけど、いつもはもう少し少ないんですか?」
「そうね、この学院の生徒は皆、六花のうちのどこかのサロンに所属しなければいけないけれど、サロンは強制参加ではないわ。」
「そうなんですね。」
「ええ、今日は真緒のサロンお披露目会だったから。とは言ってもサロンは六花やそのサロンに属する生徒を慕っている方々が集うものだから、みなさん自発的に来られるわね。」
さっきまでたくさんの生徒が楽しそうにおしゃべりしていたのを思い出した。
「そうですよね。みなさん楽しそうでした。」
ふふ、と天音先輩が優しく笑った。私は先ほどから気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、天音先輩が泉先輩に金木犀の初花に選ばれた時のお話、聞きたい…です!」
私立清淑女学院 「移り香の契り」 時任 花歩 @mayonaka0230
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