第3話

「はい!ってクレアちゃんに真緒ちゃんじゃん!どしたの〜?入って入って!」美亜みあちゃんはかなりハイテンションな子だ。奥で私達と同じように荷解きしていた聖蘭せいらんちゃんが私達を見て、にこりと微笑んだ。

「さっきぶりね。私のことはクレアって呼んでくれると嬉しいわ。」と柔らかく微笑んだ。

「私も美亜ちゃんにも聖蘭ちゃんにも真緒って呼んでほしいな。」名前の呼び方で距離がグッと縮まることは今までの新学期の繰り返しで学んだ事。まだそこまで仲が深まっていなくてもちゃんとかさんとか付けない方が心の距離が近く感じられる。でもそれが嫌な子もいるからできれば呼んでほしいと、言って相手になんて呼んだらいいかなと聞く。

「わかった!じゃあ私の事も美亜って呼んで!」

「私も聖蘭でいい。」ぺたんと床に座ったまま言っていた。物憂げなお姫様といった感じだなと思った。

「それで私達、六花りっかについて2人に聞きたくて来たのよ。おばあちゃんから聞いて、六花って何なのか知ってる?」

「美亜は分かんないな〜、でも六花って雪のことでしょ??ほら私達のセーラーの胸元にも雪のマークあるし、校舎の真ん中にあった校章も雪のマークがモチーフだったじゃない?だからよく分かんないけど、学院には関係あるのかなぁ。」そう言って、ほら、と自分のセーラー服の胸元に刺繍された雪をつまんだ。

「すごいわね。おしゃべりしながらそんな細かいところまで見ていたなんて。それに六花が雪を表す言葉だなんて知らなかったわ。」

「そうなんだ!全然気が付かなかった……!」そしておずおずと口を開いたのは聖蘭だった。

「私、知ってる。六花はこの学院の代表であり、規範。この女学院が香水にまつわる伝統があるのは知ってる?」

「いえ、知らないわ。高校生が香水の伝統なんてあるの?」香水?あの大人の女の人がぷんぷんさせてるくさいやつ?

「たぶんどこかで詳しく説明されると思うから、かいつまんで話すけど、この女学院には1学年の人数分の決められた花の香水がある。そしてその中でも特に香りが良く美しいものが六花と呼ばれる。それが、桜、薔薇ばら、百合、ジャスミン、金木犀きんもくせい蝋梅ろうばいの6種類の花。1学年の内のたった6人しか選ばれない、香水の中の花形ね。でも誰がどの香水をまとうことができるかは1つ上の代の六花りっかの方々が選ぶ。常に18人の六花の方々がいる。どの生徒も自分の香水を託す後輩を選ぶことには変わりないんだけど、六花の方々は生徒会みたいなものだから仕事を覚えるためにも他の生徒よりも早く、優先的に選ぶ事ができる。選ばれた六花の方々に選ばれるのは六花の花言葉に相応ふさわしいものだけと言われている。」

「聖蘭すごい詳しいじゃん!なんでそんなに知ってるの?!」

「お姉ちゃんが少し前に六花の百合としてこの学院を卒業したから。」

「お姉さんすごい人なんだ。ありがとう!」

「六花って伝統的な制度なのね。よく分かったわ、ありがとう聖蘭。」

そこまで知ったところでアナウンスが流れてきた。

「新入生の皆さんにお知らせいたします。13時から1階の食堂にお昼ご飯を食べに来てください。1階の食堂は中央階段を降りた椿棟つばきとう側にあります。椿棟と梅花棟ばいかとうの間にある談話室で室内履きのサンダルをもらってください。繰り返しますー」スマホを見るともう12時45分だった。

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