第4話

「そろそろ行きましょうか。」クレアの声に、みんなゆらりと立ち上がって部屋を出た。中央階段に行くと、談話室で先生らしき人が名簿にチェックを付けながら生徒達に室内履きのサンダルを渡していた。新入生がたくさんいた。サンダルの列に並んでいるとなんだか視線感じた。周りを見回すと、私達の様に4人組で固まっている生徒は少なかった。ほとんどが部屋割りの2人組でいたから目立ったのかもしれないと思った。でももしかしたらこの3人が美形すぎるからなのかもしれないとも思った。

クレアは亜麻色あまいろの髪に仄暗ほのぐらいペリドットの瞳。彫りの深い顔立ち。ビスクドールの様な容姿を持っている。美亜はぱっちりとした猫の様な瞳に漆黒のストレートのロングヘア。まさに黒猫の様な不思議な魅力がある。聖蘭は赤みがかった茶髪をハーフツインにしており、大きく開いたアーモンド型の目に色素の薄い茶色の目。クレアや美亜に比べると、背が小さいので物憂ものうげなお姫様といった印象を受ける。周りの生徒と比べても視線を集めてしまうような匂い立つばかりの美しさがある。クレアは本当に六花りっかに選ばれるのかもしれない。そう思った。私達の番になり、名前を聞かれ、事前にあった制服採寸の時に試し履きして選んだサイズのサンダルをもらった。それから中央階段を降りて食堂へ行くと、既に人で溢れかえっていた。かなり広い食堂なのに生徒がたくさんいた。サンダルの色を見ると、先輩もいた。

「1年生はここにあるお盆を持って並んでもらっていってください!」と先輩に言われて、各々カウンターに沿って料理を受け取った。

「各自好きな席に座って食べてください!」そう言った先輩の横を通り過ぎた時に桜の香りがして、私達4人はお互いに顔を見あった。食堂を見渡すと何人かの先輩こんな風に誘導をしていた。席に着くと、クレアが

「さっきの人、桜の香りしたわね。」と言った。

「六花の人じゃん!すごい可愛くなかった?!」

「六花は容姿も性格も優れた人しか選ばれないから。」美亜の肩越しにガラス窓の廊下から沢山の先輩達がおしゃべりしながら覗いているのに気がついた。

「そうなんだ。だからあんなに先輩達も見に来てるの?」私がそう言うと、みんなが私の視線の先を見た。

「あれは物色。次の六花に選ばれる人を予想してる。あとは自分の香水を託したい生徒を探してる。お姉さまが言ってた。1年生がゆっくり食べられなくて可哀想だって。」

「そんなにみんな次の六花に興味があるのね。不思議な文化だわ。」

「確かに。昭和初期のエスみたいな制度なら、誰にもバレない様にするのにね。」美亜は博識なんだな。

「エスは流行していただけで、学校全体の伝統行事ではないから。それに六花は生徒会みたいなものだから人前に出るのは避けられないし、優れた人が選ばれるから憧憬どうけいの的になる。いわばアイドルみたいなもの。それに香りでバレてしまうから。」

「へぇ〜みんなで予想してるんだ。」

「うん。寮生活の娯楽。」昼食はかなり美味しかった。

「食べ終わったらここの洗い場で軽く流して片付けてください!」と先輩が言ったので洗い場に行き、片付け終えて食堂を出ようとした。すると途中で水のコップを持った子とぶつかってしまった。水は盛大に私の上半身にかかった。相手は慌ててごめんなさいと謝った。自分がぼーっと歩いたから気がつかなかったのもあるなと思ったので、

「私もぼーっとしててごめんなさい!全然大丈夫だよ!あなたに水がかからなくてよかった。」

と言った。でもこのままガイダンスに行くのはちょっと寒いなと思った。びっくりしたクレア達がポケットからハンカチを取り出して、ぽんぽん拭いてくれた。するとそれに気がついた先輩が、

「大丈夫?」と声をかけてくれた。ふわりと金木犀の香りがした。私が

「大丈夫です!ありがとうございます!」と答えると

「それじゃあ風邪ひいちゃうわ。ちょっとついて来て。お友達は先に部屋に戻っていてちょうだい。」と言われた。びっくりして小さな声で

「はい。」と言うことしか出来なかった。クレア達はいってらっしゃいと言わんばかりに小さくひらひらと手を振り、美亜はウインクした。私より少し背の高い金木犀の先輩は凛としていた。食堂の人だかりを抜けると、先輩は速度を緩めて私の隣に並んだ。

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