私立清淑女学院 「移り香の契り」

時任 花歩

第1話

 私立清淑女学院しりつせいしゅくじょがくいんは120年の歴史を持つ伝統と由緒のある全寮制の学校である。長野県の山奥にひっそりとたたずむ校舎は古く、大正時代のおもむきを感じさせる。制服はクリーム色のセーラーに金色のスカーフ。紺色の襟と袖には金色のラインが2本ずつ映えている。この学院には厳しい試験を合格した者しか入学できない。しかし母親がこの学院の卒業生であると優先的に入学が許可される。清らかで淑やかな乙女のみが選ばれる。とはいえ全員がおとなしい乙女でもない。でも彼女達は皆、美しい。さまざまな種類の美しさを持っている。私は今年の春、兄の勧めでこの女学院を受験し、何故か合格した。試験の日に初めて学院へ訪れた私はその美しさをに驚いた。ヨーロッパ風のお洒落な校舎や道。道というより庭園でも歩いているかの様な感じを受けたのだ。そしてさらに驚いたのが試験の手伝いをしていた女生徒達の美しさだった。モデルかなんかのオーディションなんだろうかと思ったぐらいだった。   


 

 そして今日、寮への引越しの為に再び学院へ来た。門の横の受付で名前を聞かれて②と書かれたネックストラップを、首から下げていてください、と言われて渡された。真新しいクリーム色のセーラーに金色のスカーフが風に揺れてくすぐったい。着ていると言うよりは着られている感じがするのは私だけなのだろうか。みんな大きなキャリーバックとボストンバッグを持って、さらに学院指定のバックを持っている。すると列の前方に立っていた先輩がこう言った。

「こんにちは、新入生のみなさん。今から①と書かれたカードをお持ちの方から寮へ移動となります。私達の後ろについてきてください。」私の右側にいた生徒達がからからとスーツケースを引きながら歩いて行った。美しく舗装されたクリーム色のまっすぐな道を、クリーム色のセーラー服にクリーム色とブラウンのチェックのスカートを纏った生徒が埋めていく。白のコンクリートよりもクリーム色のコンクリートの方が暖かみと柔らかさがあるんだなと思った。そんな風にぼんやりしていたら後ろに並んでいた子に話しかけられた。

「ねぇ、この②ってクラスなのかしらね?」そう言ってふんわりと微笑んだ。太陽の光に透けた白い肌と、胸までかかる亜麻色の髪を持ち、長いまつ毛に囲われたペリドットの様な落ち着いた色の瞳の少女は、まさしくお嬢様といった雰囲気だった。

「たぶんそうだと思う。③までしかないみたいだし…私達3クラスだよね?」こんなお人形さんみたいな人と話すのは誰だって緊張するはずだ。

「じゃあ私達きっと同じクラスね。嬉しいわ。私は結城ゆうき クレア。よろしく。」

「うん。私は花影かえい 真緒まお。よろしくね。」新しい友達ができて喜んでいたら、またさっきとは違う先輩が私達を案内した。宿舎へ向かうまでの間、前に並んでいた最上もがみ 聖蘭せいらんちゃんと藤田 美亜みあちゃんという子たちとも友達になった。聖蘭ちゃんは背が小さく、ハーフツインでしばっていて、腰まである茶色がかった猫っ毛をゆらゆらと風にたなびかせていた。顔も幼い印象を受けた。美亜ちゃんはカラスの様な艶のある長い黒髪を持っている、姫カットの女の子だった。ぱっつんに切りそろえられた前髪からは強い意志を感じさせる黒瞳をのぞかせていた。


からからからから音を鳴らしながらまっすぐな校舎への道を歩いて行った。そして校舎前で右に曲がり、少し細い道に入ってたら今度は左に曲がって、校舎を左側に見ながら森の中を抜けるとなんと、噴水があった。みんなうわぁとかすごいとか言っていた。そこにはさっき見た校舎とあまり変わらないくらいの大きさの宿舎があった。宿舎の玄関に着くと下駄箱が何列も並んでいて、名前を呼ばれた順に外靴をしまった。そしてスーツケースのキャスターを置いてあった雑巾ぞうきんで各自で拭いた。外観がかなり古そうなので心配したけれど、内装はとても綺麗で清潔感があり、新しそうだった。先輩たちは本当はあのままの古き良き宿舎を残したかったけれど冬が寒すぎて仕方がなかったから、設計はそのままで木材や窓だけを変えてもらったのよと言っていた。どうりで古い雰囲気なのに床が木目柄のフローリングなわけだなと思った。宿舎は右と左に分かれていて校舎から見て右側が梅花棟ばいかとう、左側が椿棟つばきとうだと説明された。真ん中に談話室という広場があった。そこからは玄関で名前が呼ばれた順に部屋に案内された。私とさっき友達になった3人と他数十名は梅花棟だった。1年生は全員2階で2人部屋らしかった。中学は学年が上がれば上がるほど階数が低くなっていったから1年生が2階なのがとても不思議だった。そして私のルームメイトはなんと、結城ゆうき クレアだった。

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