最終章 4.ニードル王子はコスプレ王子
おいおいおいおい、めっちゃ人いるじゃん。え、なんであの人もこの人も泣いてるわけ?
俺達が前へ進む度に、人々に埋もれているこの広場に道が切り開かれていく。これが、俺の父親が築き上げた力ってことなのか?
背後からは魔導士達に扮した約50人程の者達がゆっくりと付いてくる。協力してくれた村の人達だ。
持たせている杖は何本もの木の枝を削り、魔法が使えそうな、それっぽい杖に作り上げた。まとっている服装は、実久達が必死に作り上げた尖がりフード付きローブだ。丈は長く足元まであり、そのドレープがファンタジー感をより一層醸し出している。
その中にゼファーや実久も混ざり、実久なんてマジで魔法出すつもりじゃないかってぐらい、興奮を隠しきれていない。杖を大事そうに両手でぐっと握り、眉をきりっと吊り上げて真剣そのものだ。あのコミケでなりきっていたコスプレイヤー実久の思い出が甦る。こんな危険極まりない状況なのに、あいつにとってはもしかするとあの会場よりもコス魂が騒いでいるかもしれないな……。
この世界へ来た時に、スパッと半分に切られたホームセンター杖を先日修復してやると、とても嬉しそうに「ありがとう! りっきーが作ったもの、実久、大好き!」と嬉しそうににかっと笑って言ってくれた。あの時、半分になった杖にあんなにへこんでいたのも、いつまでも大事に抱えて森を走ってたりしてたのも、ずっとその想いを抱えて大切にしてくれてたんだなって気付くと、ちょっと照れくさくなった。
実久にとっては俺の作ったモノは俺が思うよりよっぽど価値のあるものらしい。そうやっていつもアイツは暖かさをくれる。いつも「りっきー、すごい!」って言ってくれるけどさ、よっぽど実久のほうが凄いって思う。だってこんなに俺を嬉しくさせてくれるんだから。
しかしまさか俺までこんな大衆の前でコスプレすることになるなんてな。今までは絶対有り得ないことだと思ってたし、実久の前以外では普段は絶対にこんなことはやらない。そしてこの世界にまで思わず握りしめて持って来てしまったコスプレボードで作ったこの大剣。ハリボテ効果抜群だろ、と思ってここに持ってきたのはいいけど、かなり大勢の人達にじろじろと見られている。そりゃそうか。こんなでかい剣、たぶんこの世界にはないはずだしな。これは鋼でも鉄でもねぇし、しかも中身は水道管なんてぜってー言えねぇ。
そんな俺と腕を組み、同じザクロ模様の服を着用し、隣で一緒に前へ力強く前進する母親の姿。なんて鋭く真剣な眼差しだろう。思わず見とれてしまっていたら、俺の視線に気づき、ニコッと優しく微笑んでくれた。
母親とはあの夜から、この17年間じーちゃんと過ごした地球での出来事をたくさん話をした。いっぱい笑ってくれて、そして、泣いてくれた。実久も途中から加わり、二人の思い出話に花を咲かせた。実久が縫製技術を俺からも習っていると伝えると、なぜか母さんは実久にお礼を言っていた。
母さんはこの1年どんな思いで過ごしてきたのだろう。父さんの生死も分からず、俺やじーちゃんも生きているか死んでいるのか分からなかったはずだろう。一気に家族3人を事実上失ったあの夜、どんな思いで夜の森を一人逃げていたのだろうか。きっとたくさんの後悔とたくさんの悔しさとたくさんの涙があったはずだ。俺は今、そんな母さんの力になりたいって心からそう思っている。
「リニア様、そしてあなたは……」
大木にきつく縛られたルディが目を見開き、こちらを見つめている。その近くの高台の上で椅子から急に立ち上がり、慌てふためく髭を生やしたおっさんと、先日見た黒髪のダガーがこちらをじっと睨むように佇んでいる。
俺はひるまず、また天へ向かって大剣をかざし、叫んだ。
「その者を解放し、火あぶりの刑を直ちに中止せよ!」
とにかく今は堂々としろ、俺……!
父親になりきるんだ……!!
目の前で火を点けようとしていた者が「なぜレスミー様が……? 投獄されているはずでは」とボソッと呟き、高台にいるあの二人を見たり、こっちを見たりしてかなりきょどっている。どうやら上の者から命令が下されるのを待っているようだ。
「レスミー・クードとして、命令を下す。その者をすぐさま解放せよ!」
再び声を張り上げて、腕をしっかり伸ばし、大剣を今度は処刑人へ向け、大声で伝えた。隣の母親もそいつから目をそらさず鋭く見つめ続け、その気迫から強い意思がひしひしと伝わってくる。すぐ近くにいた実久が顔をゆであがったタコ並みに真っ赤にさせ、血走ったような目で俺をガン見している。どうも俺のこの姿とこの声に大興奮しているみたいだ。恐らくコスプレマニアにはたまらない立ち姿なんだろう。お願いだから今は叫ばないでくれよ、実久……。
その時、城の方角から誰かが引きずられるようにこの広場へやってきているのが視界に入った。鎖の手錠を付けられ、身に着けている服はかなり傷んでいるようだ。若い男に見えるが、あごや鼻下の髭も長く生え、明らかに整った身なりではなく、かなりやつれきったように見える。兵士に鎖を乱暴に引っ張られながらふらふらと歩いてくる。その人の髪色は、いつもよく見ているものだった。
俺の髪と同じ色だ――
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