最終章 来たる真実
最終章 1.切り開かれた道
空がもうすぐ夕暮れに向かおうとしている。城の
あの夜、王子達を逃がした後、私は捕まり裁判をままならぬままこのような火刑を下された。
あの日、お三方が森で散り散りになったあの日から、私はダガー王に近衛兵として傍に置かれ、ずっと監視される身となってしまっていた。レスミー様の家臣達は、世界中で散り散りにさせられ、クード城に仕えていた者達も皆ばらばらになった。
レスミー様。
私はこのクード城での職務についてから、もうすぐ17年になります。
父と同じように10歳の頃からこの世界へ入り、上司だった騎士へ付き、様々な身の回りの世話から、剣の修行に身を置いてきました。ミスルド一族は代々、このクード城へ仕えてきた一族ではありますが、貴族の家系ではないために、衛兵という一兵士としての役割をただひたすらに長年全うしてきました。それが決して誇れないことではないと私は思っています。むしろ誇れる点だと。
しかしずっと騎士に仕えていた生前の父は、よほど悔しい思いをしてきたのでしょう。私に「ルディ、騎士となれ」といつも言われ続けました。私は父の願いを叶いたい一心で、修行に励み、剣の腕を磨き続けました。けれども女性剣士の私にとってそれは過酷な申し出だったのです。他の兵士からは散々馬鹿にされ続け、「女兵士だというだけでおかしな話なのに、騎士になんてなれるわけがない」といつも言われ続けました。「お前のやっていることには意味がない」と。
ですが、私は父にそう言われたが為に、ここまで歩いてきたわけではありません。そこには女としての意地もありました。なぜ女というだけでそこまで言われないといけないのか。女だから女らしくしないといけないのか。私がもし誇り高き騎士となれば、もしかすると女性の暮らしをもっと安らかに、もっと清らかに出来、魔女狩りなどというこの悪事も少しは停滞するかもしれない、そう思いながら、この新しい国の新たな希望になれるよう、日々を過ごして参りました。しかしそんな日常に心折れかける時があったのも事実です。
そんな時現れたのがレスミー様でした。いつも私を励まし続け、先導され続け、女である兵士の私にも分け隔てなく接してくださり、とても嬉しかったことを覚えています。「一つのことを続けることはなかなか出来ることではない」といつも微笑み褒めてくださいました。私はあなたをあの村でリニア様と共に暮らした時からよく知っています。誰よりも国を思い、民を思い、自らその道を切り開いていくその強さ。あなたは国の為に出来る事をしたいと、城へ戻った後も勉学に明け暮れ、新しい国家を作るために、民がもう戦争で苦しまぬためにと、いつも励まれていました。私は例え騎士になれぬとも、あなたにずっとこれかも仕えて行こう、そう思っておりました。
しかし、そんな未来を見ていたあなたは今も牢獄の中。
私はあなたを助けられる日を願いました。何度も何度も。例えそれが信じられないような事でも、そのようなことが起ころうとも、私はそれを信じ、月食の夜を私は何度も待ち続けました。
そしてあの日、あなたと瓜二つな成長した御子息が、リュウシン様と共にあの時と同じ球体から戻って来たあの夜。そこから、止まっていたこの世界の時間が再び動き始めた、そう思ったのです。何かがまたこの世界で変わり始めようとしていると。
この世界が以前のようにあの頃のような平和を取り戻せるのならば。私はあなたの御子息のために命を懸けることが出来るのならば。私の一族の夢は途絶えてもいい、そう思いながら。
親であるレスミー様が見られるはずだったご子息の成長されたあのお姿、お見せしたかった。
今、目の前の高台では、家臣に囲まれたマーヴィス法王、そしてその隣には、私を真っすぐに見つめるダガー王が椅子に腰掛け、私の火刑執行を待ち望んでおられます。
ダガー様、あなたは私がいつか王子や王妃と接点を持つ日が訪れるはず、そう目論んでいたのですか。あなたが本当にこの立場を望んでいたのか、私は今でも疑問に思うのです。あなたがこの先に何を見て、兄であるレスミー様に何を見ていたのか。
あなたは本当に今のようになりたかったのですか?
本当に兄を憎んでいたのですか?
もう足元の木々に火が点けられようとしています。
目を閉じ、この国へ、祈りを捧げます。
私がいなくなった後も、あの月の導きが再び訪れる事を――
「なんだあれは……!?」
急にざわめき出した民の声や兵士達の声に、目を再び開けた。
すると大勢の人で埋まるこの広場の中心に、まるで道無き道が作られるように、誰かが前進してきている。その者達が進む度に、先行く未来が作られるように、道が切り開かれていく。
その姿は誰もが待ち望んでいたあのお姿だった。
金色に輝く髪を持つその人物は、あのザクロ模様のローブを身に着け、その隣には同じ模様のドレスをまとった女性。その二人の背後には、ずらりと並ぶフード姿の者達が大勢いる。その手には皆、背の高い杖を握っており、まるで昔、本で読んだような魔導士のような集団だった。
先頭の二人は足並みを揃え、ここへ一歩一歩近付いてくる。その堂々とした足並みで。
「これは、幻、か……?」
私の目からは、暖かいものがこぼれ落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます