2章 10.真実を抱えて

「な、何言って……」


 どこから考えていいのか分からないし、どこから何を聞いていいかも分からない。分からな過ぎて、言葉が見つからない。こんな経験は初めてだ。聞きたいことが溢れすぎて、聞けない。まずこれを信じていいのか? クード……、クードって今言ってたよな? で、ここは元々クード王国で……。ということはクードって王族の名前じゃねぇのか……? だいたいなんだよ、リキルト? リキラリト? 何その名前、言いにくいし!!


「お前はこの世界の王位継承権がある王子だということだ」

「王子ぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!? りっきーがっ、本物のっ、おうっ……」


 さっきから自分の手で口を押さえてたくせに、ついに限界が来たのか、目をまん丸にして実久が叫び始めた。お、ゼファーが実久の口を抑えた。あいつもだいぶ実久の扱い方が分かってきたみたいだな、ってこんなこと思ってる場合じゃねぇ……!


「俺がこの世界の王子!? バカな事言ってんじゃねぇ! 俺はれきっとした一般地球人だ!! この世界の人間じゃねぇ!!」

「チキュウ……?」


 疑問符をのせたゼファーのその声だけが暗闇に響く。


「うん、実久達はね、遥か遠くの地球からはるばるやって来たんだよ」

「おい、実久っ、俺達が宇宙人みたいなこと言うんじゃねぇ!」


 いや、宇宙人には変わりねぇか……。


「お前達がやってくるのは1年前から予想はしていた。オレの目の前でリュウシン法王と幼い1歳のお前が急に消えたあの日からな」

「1年前って、俺は今18歳だぞ!? ふつーに地球で高校生やってたし、ぜってー人違いだって! 1年で一気に17年も年とるかよ!」


 さっきからずっと意味不明なことを言っているこの王に物申せずにはいられねぇ。


「オレもお前の姿を最初見た時はおかしいと思った。だが、似すぎている、兄に。それに祖父の名前も辻褄があう。お前は父の姿をまだ知らないのだろう? 見れば分かるはずだ、お前たちが親子だということがな。この世の謎はまだ全て解明されていないのが事実だ。生命はどう生まれた? この地は? お前はここにどうやって来た? 時間という概念をお前には説明出来るのか? お前は本当にそのチキュウとやらで生まれたのか? 1歳の時何かあったはずだ。今まで自身の生い立ちに何も疑問に思ったことはないのか? それはお前が一番よく分かっているんじゃないのか……?」


 次々に繰り出されるそのダガーの言葉に思わず言葉が詰まる。


 今までずっと疑問に思ってた俺自身の生い立ち。この容姿にこの姿。両親の顔も分からないが、どこかの海外の血でも混ざってんだろって勝手に思っていた。そんなもんなのかなって。なのに……。まさか、嘘だろ……? ……俺は地球で生まれて、ない……?


「俺が地球人じゃない、とでも言うのか……?」


 急に目の前がくらくらしてきた。体も小刻みに震えてきてるし、俺が俺じゃないみたいだ。

 じーちゃんはこれを全て知ってたって言うのか……? ダガーの顔も、誰の顔も、もうまともに見る事も出来ない。全てが見透かされそうで、知りたくないことも何もかもこの体へ打ち込まれそうで、耐えられるか分からない。


「そうだ、その通りだ。先日の月食時もあの森で家臣に見張りを頼んでいた。そこで老いたリュウシンがおかしな光る球体から戻って来たと報告を受けた。その孫らしい奴も現れたともね」


 ダガーの声がこの脳内へむなしく響く。あの時の甲冑野郎達はダガーが差し向けていたって言うのか。


「りっきー……」


 だいぶ落ち着いたのか、心配そうに実久が俺を見つめてくれてるが、なんて言っていいのかもわかんねぇ。


「あの者達を捕まえろ」


 兵士達へ命令するダガーの声がぼやっとする頭に届く。

 俺にはなんで捕まえられようとされてんのかも分かんねぇよ……。


「ここは私が抑えます。リキラルト様、あなたの父はあの城で監禁され、生きておられます」

「え……?」


 ルディが簡潔にそう言うと、剣をまたぐっと握り、10人以上もいる武装兵へ向かって鋭い眼差しを送っている。その灰色のローブから見えた、銀色の鎧。あの森の中で襲ってきたあの甲冑野郎達と同じデザインだ。なんで同じ甲冑を身に着けた仲間を裏切ってまで、そんなに俺達を守ってくれるんだ……? 父が生きてるってなんだよ……?


「おい、リキト君、行くぞ! しっかりしろ! ここからはやく離れるんだ!」


 ゼファーから右手を急に引っ張られ、体がガクンと揺れ、膝から崩れ落ちそうになる。


「ルディさんが……」

「今は彼女に任せるしかない……! 僕達がいても足手まといになるだけだ……!」

「でもっ……」

「君にはミクちゃんを守るという使命があるだろ! また彼女を牢獄に入れるつもりか!? しっかりするんだ!」

 

 ルディを見たり、こっちを見たりしておろおろしている実久が目に止まる。


「……あぁ、そうだな」


 その喝で少し正気を取り戻す事が出来た。ゼファーには後でお前の疑問符をたくさん解決させてやりてぇよ。


「実久っ、行くぞ!」

「でも、ライツニ……、ルディ様がぁぁ!!」


 実久の右手を強く引っ張り、石畳の坂をゼファーと3人で走って下る。

 またルディさんをその場に一人残してしまう。あの女性剣士は最初から確実に俺の正体を知っていた。そんな気がした。


「ルディさん、すまない……」

 

 段々と小さくなっていく彼女へ振り向き、一言呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る