2章 7.輝きを捨て去った先に
いつものように魔女の捕獲情報を聞き、地下にある牢獄へ足を進める。今夜捕まったのは若い女だ。そのような者が捕獲された時、決まって王族管理下に置かれている城下町の娼婦が住む家へ送られる。家と言っても彼女達の地獄に変わりはない。身も心もボロボロになるまで性の奴隷として働かされるのだ。そしてその金銭は全て城と法王の元へ吸い取られる。あの女性達を見ると、もしかすると、いや、死刑になったほうがいいのではないかといつも思ってしまう。
今宵もその手配を進める。いつまでこのような仕事を任せられるのか心底嫌気がさしていた。ひんやりとして冷たく、暗いこの場所は一層とその気分にさせてくれる。
「お、ルディか。こいつをまたあの家へ連れて行くのか?」
「ああ、開錠してくれ」
へらへらといつも笑っている見張りの兵士へ、鍵を開けるよう促す。毎度この男と話すのも嫌悪感を抱いてしまう。
「死刑にするよりよっぽど金になるもんな。ま、用済みな時は殺せばいいわけだし。しかしこの女、珍しい顔してやがる。城下町のあの家より、王家側で管理したほうがもっと金になるんじゃねぇか?」
「ああ、そうだな。だが、こいつはその王家側で問題を起こして捕まってるからな。城下町へ送ることにする」
「らしいな。ま、どこにいたってお前よりは稼げそうだもんな。ルディ、お前も女なんだから、そんな兵士ごっこなんかしてねぇで、一緒にあの家に世話になったらどうだ?」
「……黙れ」
「おお、こわっ。そんなに睨まなくてもいいじゃねぇか。ま、お前の図体じゃ誰も相手にしてくんねぇだろうな、ハハっ」
いつものように私のしている事にいちいち突っかかってくる。私があの男よりも階級が上で、それも女で、こうやって男共と一緒に働いているのが気に食わないということは分かっている。貴族生まれでもない私はいつも皆に目の敵にされている。父もこの国を守る兵士だったが、憧れの騎士にはなれずこの世を去った。私が知る限り、兵士の中に女は私しかいない。そんな私に父はいつも望んだ。「騎士になれ」と。家族の中で唯一生き残った私に。でもその一族の夢はもう叶うことはない。私自身が捨て去ったのだから。
こんな世界になってしまったあの頃からふといつも思う。私は今まで何をしてきて、何を目指していたのだろうと。今まで自身と同じ女性を金のなる家へ幾度となく連れて行き、不幸を与えてきた。今もそれは変わらない。これが騎士を目指す者が行うことなのだろうか。何度も何度も苦しんだ。例えこれが上からの命令だとしても、実行しているのは私だ。私が数多くの女性を殺してきた事と同じだ。以前は確かに目指すべきものがあったはずだ。だが、今となってはそれも意味なんて一切感じられない。
私が目指す光はもうどこにもない――
目をぱちくりとさせている女性の腕をぐっと持ち上げ、鎖付きの手錠をかけると、冷たい石畳の牢獄から連れ出した。その時、隣の牢獄に約1年居続ける男性と目が合う。体は痩せこけ、髭も髪もなにもかも長く伸び、服もズタボロだ。
だが、その緑色の澄んだ瞳だけは、まだあの時のままだった。
何度見てもその輝きをこちらへ向けられる。
その瞳を見る度に、いつも自身の存在を自問自答してしまう。
一族の夢、そして私自身さえも捨て去ったその夢。
それでもまだ、もがいてしまいたくなってしまう。
これは私自身への償いなのかもしれない。
「行くぞ」
手錠をかけた女性へ一言告げると、その男性は「ミクちゃん、また会おうね」と口を開き、彼女はこくりと頷いた。
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