最終章 9.「もしも」のそこに
「おい、実久!! 余計な事また言うなって!」
りっきーにまた背中のローブを強く引っ張られている。けど、実久だって守りたい! ゼファーみたいに大好きな人を!
さっきの会話こっそり聞いてたら、たぶんゼファーはりっきーママンのことが好きだったみたい。りっきーもなんだか悲しそうな顔してたからこのことを知ってのかもしれない。でもりっきーママンにはレスミーパパんがいるし、きっともうどうにもならないのかなって思う。それでもきっとゼファーには、ゼファーなりの思いがあったはずだと思うし、りっきーママンもりっきーママンなりの思いがあったんだと思う。さっきゼファーに「ありがとう」って言ってたし。ゼファーは少し照れ臭そうに微笑んでた。そんな二人を見て、実久も実久なりに大好き人のために頑張る。そう思えたんだ。
「……父上、もうおやめください」
あの男の人がりっきーパパん……? 金髪ひげもじゃではっきりとは分からないけど、目元なんかりっきーにそっくり。すごく悲しそう。それになんだか聞き覚えのある声だ。
あ、蹴られた!!
りっきーパパんの顔にマーヴィスと言われてた黒ひげおじさんから思いっきり顔面に蹴りが入った。
「レスミー!!」
近くにいたりっきーママンが泣きそうになりながら叫んでいる。りっきーパパんは石畳の地面に倒れてから、よろよろと起き上がり、膝を付いた。とっても痛そう……。口からは血が出て、ぽたぽたと地面に落ちてる。実久はどうすればいい、どうすればいい……!?
それにやっぱり、あのりっきーパパんの声、どこかで聞いた気がする、思い出せ、思い出せ……。りっきーと声が似てるからそう思うのかな? ううん、違う、きっとどこかでぜったい聞いた、聞いたはず! あの声、あの声……。サバンさんのおうちでも同じこと思い出そうとしてたけど、思い出せなかったんだった。
「レスミー……、レスミー……? あの声、りっきーに似てる声。うーーん、あ? あ……? あーーーー!! 思い出したぁぁぁぁ!! あの優しい人だ!!」
「え!? 思い出した!?」
後ろのりっきーがびっくりしている。りっきーだけじゃない。周りのみんなも実久のこと全員見てる。ちょっと大声出し過ぎたかも。
「実久、牢獄に入れられてた時、りっきーパパんとお話したんだった!!」
「え、そうなのか!?」
「うん、姿は見えなかったけど、なんで泣いてるの? って隣から言われて、色々お話聞いてもらって。それでりっきーのお話もたくさんしたんだよ。小さい頃からのお話も全部。あの時すっごく実久、悲しくて、りっきーにまた迷惑かけちゃったと思って……。でもりっきーパパんがそんなことないよ、って言ってくれてすごく優しくしてくれたの、それに……」
そっか、ということは、あの高いところにいる闇落ちりっきーと黒ひげおじさんはりっきーパパんの弟とそのパパんなのか。父親が息子を蹴るだなんてひどい……!!
「……レスミー、お前は一体どんな術を使ったのだ!? お前は牢獄の中で悪魔と契約したとでも言うのか!? お前はいつもそうだ。なぜ父親の言う通りに動かぬ! 勝手に民と触れ合ったりしおって! キーペントの名を傷つけるようなことは一切許さぬぞ!!」
「ちがーーーーう!!」
大声で叫んでしまった。その時被ってたフードもパサッと落ちて視界が突然開けた。
……これ以上りっきーパパんをけなされるのはすごく嫌、嫌だ!!
「りっきーパパんは、牢獄で悪魔の契約なんてしてない!! 実久、隣にいたから知ってるんだから! りっきーパパんを蹴るな! 自分の息子を足蹴りにするなんて実久、ぜったい許さない!! 黒ひげおじさんのバカぁ!! りっきーパパんはりっきーみたいにすっごく優しいんだからーー!! それに黒ひげおじさんにも闇落ちりっきーにも、申し訳ない事したってあの時言ってたもん! なんで、なんでっ、こんな酷いことばっかりするの!? 闇落ちりっきーは光落ちしろよおお! どあほぉぉぉ!!」
辺りが一瞬静まり返った。
「誰だ、あの小娘は」
「あいつはルディが助けた女だな……、訳わからぬことを……」
闇落ち親子がぼそっと呟いた。
「もしかして、ミクちゃん……?」
おぼつかない足で地面からふらふらと立ち上がってくれた悲しそうな表情のりっきーパパん。その顔は傷だらけだ。無性に悔しくて悔しくて、握ってた杖をぐっと力いっぱい握りしめた。実久はやっぱり何も出来ない。さっきはこの杖に火をつけて、魔法のように兵士の脇腹を突いたけど、もう同じ手は通用しない気がする。
実久がもし魔法が使えたら、ドラゴンなんて操れたら……。実久が勇者だったら……。この世界で手に入れた能力がチート級だったら……。
もしももしも、っていつも思いながら、憧れキャラのコスプレをたくさんしてきた。けれど『もしも』に外見だけなれたとしても、実久の中身はやっぱりいつもと変わらないままだった。
このローブだって、魔導士に例え見えたって、やっぱり本物にはなれない。見た目だけ変わっても何も変わらない。そんなこと分かってる、けど、けど――
すっごく悲しくなってきた。
とてつもなく興奮したせいか、涙も出てきてしまった。足元に雫がぽつぽつ落ちてくる。
「ううううう……」
「実久……、お前俺の父さんと話したんだな、そっか、色々俺のこと話してくれてありがとな……」
りっきーが実久の頭をぽんぽんと優しく叩いてくれて、顔を覗き込んでくれた。りっきーの声もあの時のりっきーパパんみたいにまたすごく暖かかった。
「りっきー……、いつもりっきーの役に立ちたくて……、でもやっぱり何も出来なくて……、今だってみんなを助けたいのに……」
身体が小刻みに震えて、目から涙が次々に溢れてきて、両手でぬぐってもぬぐっても止まらない。
「そんなこと言うなって! お前は十分俺を助けてくれてるし、今だってゼファーを助けてくれた。それに俺の父さんの為に怒ってくれてるじゃん。お前のその気持ちだけで救われるんだよ。気にすんなって! ほら笑えって、いつも笑ってるだろ? お前の笑顔で元気になれる奴もいるんだからさ」
少し困ったように、照れくさそうに、今度は実久の頭をぐしゃぐしゃっとちょっと乱暴に撫でてくれて、ほんのり笑ってくれたりっきー。実久って単純だから、すぐに嬉しくなっちゃう。顔にすぐ出ちゃう。そっか、笑えばいいのか。そっか……。
ずっとずっとりっきーにも、誰かの役にも、立ちたいって思ってた。けどいつも空回りしちゃって。それでもりっきーはその気持ちだけで救われるって言ってくれた。実久は実久のままでいい。役に立つとか、意味とかも、何もなくてもいい。そう思えた気がするよ。
「……ありがとう」
りっきーの優しい笑顔で、また泣いて笑った。
「何をしておる! 民達のそんな武器ともいえぬようなものでたじろぐではない! 逆らう者は全て捕えよ。攻撃してくるものは命はないと思え!」
また黒ひげおじさんの声が無情にも響いて、周りの兵士達が実久のファイガの効力から覚めていく。サンダガのほうが良かったかもしれない。
「父上、ダガー、もうやめてください! これ以上もう、民達を傷つけないでください……」
鎖に繋がれたままのりっきーパパんは、高い場所にいる二人をまた見上げて悲しそうに呟いた。
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