2章 2.王都に採寸へ
「城まではどれぐらいなんだ?」
「今日の調子だと3時間程だよ」
でかい馬1頭で引いている馬車の荷台に揺られて、がたごとする舗装ももちろんされていな道をゆっくりと進んでいる。城まで行く時は、いつもこうやって行商の知人に近くまで乗せていってもらっているらしい。
俺達は昨日より更に身なりが整った格好で裁縫道具を抱え3人で城へ向かっている。その城にはやはりそれなりの恰好をして出向かないといけないらしく、スタンドカラーに胸元には大きなフリルが三段付き、ピンタックがたっぷり入ったコットンの白シャツに深緑色のロングジャケット、黒い細めのボトムスだ。
ゼファーも同じような白シャツにショールカラー付きな赤茶のロングジャケットで、同じような格好をしている。ほっそりとした革のブーツはそんなゼファーが貸してくれた。流石にあのごついブーツはもう履く気がしない。
この姿に着替えた時、実久が「ぎょええええ!! 王子が二人ぃぃぃぃ!!」とまた血走った目で絶叫していてたので、流石のゼファーも引いていた。
そんな実久は胸元がまたざっくりと開いた、胸下で切り替えられた淡いピンクのふんわりとしたロングドレスを着て赤いショールを肩にかけている。そんなエンパイアスタイルのためか、でかい胸が更に強調されていて、そこだけがどうしても俺としては気になる。本人が何も思ってないのが更に余計に気になる。
そういやファッションの歴史の授業で習ったな。女性が胸元の空いた服を着ることに確か理由があった気がする。ここの世界でもそうなのかは分かんねぇけど、確か殿方アピールの為だったけか?
俺達が過ごしていた世界では女性は社会進出を果たしてバリバリ働いてたけど、この世界ではまだ女性の立場は弱いんだろうか。やっぱまだ男性に助けてもらわないと生きていけない世界なんだろうか。いや、この服からして、もしかするとむしろその使えるモノを使ってたくましく生き抜いている……?
「今日採寸する女性達は王族専門の高貴な娼婦の方々だよ。失礼のないようにお願いするよ」
「娼婦だと!?」
「しょーふって何?」
早速たくましい女性案件だ。はぁ、それにまた実久がおかしなこと言い出し始めた。思わず頭を抱える。でもここはしっかり勉強させておかないとなんだか嫌な予感しかしない。するとゼファーが口を開いた。
「娼婦と言うのはね、男性の性の欲求を満たすための仕事をしている女性達のことだよ」
なぜそんな冷静にそれも上手く娼婦の説明が出来るんだろうか。ちょっと俺尊敬。
「性の欲求……」
実久は考え込むように、眉間に人差し指を当て、しわを寄せ、何かを考えてる素振りをしている。まるであれだ、昔流行ったトレンディドラマの刑事のようだ。なんだっけ、えーっと、
流石の実久もゼファーが言ってた意味ぐらいきっと分かるはずだ。小学生から性教育は受けてきたはずだし、ちょっとは俺が男だっていうのもこの機会に自覚してほしいもんだ。毎回寝ているベッドにダイブされちゃこっちもたまったもんじゃねぇ。
「君達も年頃だし、分かるだろ? 僕にしてみたら、君達のような年齢で仲のいい二人が恋人でもないなんて不思議に思うね。まさか肉体関係を持たない純愛主義とでも言うのかい?」
「ちょっと待ったぁぁ!!!!」
こいつ何を言い出すのかと思えば、実久に涼しい顔してもうそれ以上言うのはやめろ! なんだよ純愛主義って! プラトニックラブとでも言いたいのか!? 尊敬通りこして引くんだけど! しかもここの日本語おかしくねぇか!? カタカナが無理やり漢字に変換されてるみたいで突っ込んでいられなくなる……。てか肉体関係って!! 思わず実久ととんでも発言男の間を遮るように乗り出してしまったじゃねぇか……。
「あれ、違った?」
「違うっ!!」
ゼファーめ、すっとぼけたような顔するんじゃねぇ……! 処理能力値を超えたのか後ろの実久がさっきの古畑四郎のまま固まってんじゃねぇか! ショックなことがあるといつもこうだ……。
「そうか、じゃーミクちゃんには相手無しってことだね」
「そうだけど……」
俺達は恋人同士ではない。だが、なんかその言葉が引っかかる。
「あ、町が見えてきたよ、ほら。さて仕事の準備しなくちゃね」
「ああ……」
ゼファーがなんでもなかったように、荷物の確認を始めた。確かにまだ小さいが城下町が見えてきている。実久はもう少しでこちらに戻って来られるな、たぶん。
「君の両親の手がかりが見つかるといいけど、変な行動はしないでね。ただでさえ城の中は今、空気が悪いんだ。今の王と法王が結構な独裁者でね」
「ああ、分かってる。俺だって下手なことして捕まりたくねぇし……」
「君があのローブ持ってる事が王族に知れたら、きっと牢獄行きだね。そして死刑。関係者だって疑われても仕方ないよ」
親切そうな顔で話すゼファーだが、なぜかいつも恐ろしい事をさらっと言っている気がする。
到着後、馬車から下りた俺達は活気溢れる城下町を歩き、城を目指す。
途中で市場のような場所を通り抜け、この城下町で売られている珍しい品物たちに目を奪われた。その中に綿花や色とりどりの反物なども多く売られている店もあり、この時代の繊維製品を思わず見つめてしまう。
しかしこの城下町はまるで山登りしてるのかってぐらいに急な坂道になっていて、城までずっとずーーっと登り道だ。道はぼこぼこしてる石造りで歩きずれぇし、ぜぇぜぇ行ってしまう自分が情けない。ゼファーは慣れているせいか、涼しい顔して背筋もピンと伸ばし、すたこらと歩いている、と思ったら口を開いた。
「城内の人々はあまりキーブルド語を使わないんだ。敵と見なした前の法王が広めた言葉だからね。僕が受け答えを全部するから君達は必要以上に喋らないでね。クード語が喋れない元キーペント人や元イメーブル人もそれなりにいるから怪しまれることはないとは思うけど、念のためにね」
「元外国人もいるってことか」
「そうだよ。ここはキーブルドの王都だからね。たくさんの人々が働きに来ているんだ」
「なぁ、もしかしてここって綿花の栽培が盛んなのか?」
「そうだよ。元クード王国は気候がいいからね。たくさんの綿花が栽培されているから、そこで働いている元外国人も多い大きな産業なんだよ。そのおかげで必然的に縫製ギルドや繊維ギルドも大きくなってね。元クード王国の領地はこの産業で成り立ってるんだ。残念ながら今の世界情勢的に前程良くはないけどね」
さっきの市場でたくさんの綿花や布地、糸が売られてた理由はやはりそういうことか。
「前はもっと盛り上がってたんだな」
「そうだよ。前の王の時は本当にどのギルドもよく機能していて、流通的にもお金の流れもすごく整ってた。僕も以前はここによく資材を買いに来てたけど、最近はさっぱりさ。時たま今日のように縫製ギルドからもらえる仕事をこなしてる感じだね」
「直接仕事を王族からもらってるわけじゃないんだな」
「直接なんて夢の夢だよ。名の知れた縫製士でもない限り、僕のような一人でこじんまりやってるような縫製士に王族が直接頼んでくれるわけないじゃないか。だから縫製ギルドに加入してこうやって仕事を回してもらってるんだよ」
まーそうだよな。日本でも色んな協会とかあるもんな。商工組合とかそんな感じか?
「うへーーーー、りっきー、きつ~~い」
「おい、しっかりしろって! 俺のアシスタントするんだろ!?」
さっきの古畑四郎から復活した実久は、森では俺より前をあんなに突っ走っていたのに、今はよろよろ前を歩いている。俺はそんな実久の背中を押し、足に力をぐっと入れながら一歩一歩歩いてるってのに。さっきの賑やかな市場ではあちこち見ながら騒いでたけど、通り過ぎてからはずっとこれだ。
あの時の森での疾走力はきっとアレだ、興奮しすぎて脳内からドーパミンが出過ぎてたんだろう。疲れ知らずって言うもんな。
「お前の大好きなファンタジー世界だぞ? 城にはきっと勇者とか住んでんじゃねぇか?」
周囲はレンガや石造りの家に囲まれてるただの歩道だったが、どうにか一人で城まで歩いてほしくて、テキトーなこと言ってみる。俺の足もこれ以上実久の背中まで押してたら限界だ……。
「……勇者さまっ!? ほんと、ほんとに!? 行くっ!! 会いたいっ!!」
「……かもだけど」
少し罪悪感が芽生えて、一言付け加えたけど、時既に遅し。かなり前を走ってどんどんその姿は小さくなっていく。はぁ、効果ありすぎだろ……。
「勇者がいるなんて、聞いたこともないよ」
「……分かってる」
近くで歩いていたゼファーが冷たく述べる。この世界はいわゆる本に出てきそうなファンタジー世界ではないと薄々気が付いてはいた。まー逆にドラゴンやら勇者、魔導士がいたとしても俺としてはかなり困惑問題だけどな。実久は大喜びだろうけど。
「ミクちゃんの面倒をしっかり見ることだね。あの子はどうやら前しか見えないみたいだから、少し、いやかなり心配だよ」
「ああ……」
これまで培ってきた実久との日々が試される時だな、マジで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます