最終章 12.真実
「は……? 何言ってんだよ。じーちゃんはここで生まれたんじゃないって言いたいのか?」
「そうだ、リュウシンが世界に広めたお前が今喋っている言葉が、なぜこの世界で通じるかと疑問に思ったことはないのか……? 我はお前のその話している言葉でやっと信じることが出来た。お前がその世界からやってきたこと、そしてリュウシンがお前が生きていた世界の未来からやってきたと言う事がな……!」
おいおい、マジかよ……。確かになんで日本語がこの世界の共通語なのか不思議には思ってたけどさ、こんなことアリかよ……!?
「リュウシンが行方不明になったあの夜、我はリュウシンの部屋から宛名のない1通の封書を見つけたのだ。その内容は奴がチキュウのニッポンという場所から来た未来人だと書かれ、この3国を統一するためにやってきたとも書かれておった。あやつがなぜこの3国を容易く統一出来たのか。容易に分かるだろう? それは未来人が故にこの世界の行く末を知っていたからだ! それらの情報を利用し、意図も簡単に己の欲するままに世界を変えたのだ! それしか考えられぬ! そんな私利私欲溢れる奴がこの国をまとめていたとは、なんと愚かなことか! 皆はあやつに騙されておったのだぞ!? これでもお前達はクード王族に従うと言うのか……!?」
そんなこと、あのじーちゃんがやるはずねぇ!
「じーちゃんがみんなを騙すとかそんなことするわけないだろ!? もしそれが本当だとしてもこの世界は良くなっていたはずだ! お前らが抗争起こす前は色んなギルドもかなり機能してて、景気がよかったんじゃないのかよ!? それをお前達が逆にめちゃくちゃにしたんじゃねぇか!」
じーちゃんが世界征服のようなふざけた事をするわけねぇじゃねぇか。もしそれが真実でも、きっと何か別の理由があるはずだ。
「何を言う、奴は詐欺師だ! 我は救世主だ! 詐欺師から世界を救って何が悪い! 我らは世界を救ったのだぞ!? 称えるべきだ! リュウシンは我らを騙し、勝手に世界を構築始めた。奴はきっとあざ笑っていたのだ。自分の力で操れるこの世界と人々を……!! クード王国は奴に利用されたのだ!」
「違うわ! 父はこの国をいつも労り、想っていた。私は父を幼い頃からよく知っているわ。そんな父ではない……、己の我欲の為に動くような人では決してなかった……!」
近くにいた母親もその真実に驚き、信じられないようだが、じーちゃんの潔白を必死に訴えている。
だが、民衆の様子も不安の色が垣間見える。皆が顔を見合わせこの状況を確かめあっているようだ。
このままじゃまたこのマーヴィスの思う坪だ。
「何をもたもたしている! はやくリニアを捕えよ! 我らに逆らう者は容赦するな……!」
「くそっ!」
武装した兵士達に一気に囲まれ、母親は腕を掴まれ、抵抗は見せているが連れて行かれそうになっている。ゼファーも村人たちもじりじりと詰め寄られ、ルディさんが一人で剣でどうにか応戦しているが、多勢に無勢だ。時間の問題なのは分かりきっている。実久もホームセンター杖を持ってファンタジーな魔法の技をあれこれ叫んでいるが、そんな技が出るわけもなく、長い木の棒をぶんぶん振り回している。ゼファーや武器を持った民衆もたじろいでいる。俺達はどんどん敵兵に押し込まれ逃げ場さえも無くして行く。このままでは必ず犠牲者が出てしまう――。それはきっとみんな分かりきっていた。
大きく深呼吸した。
「……もうやめろ!! 俺だけでいいだろ!? 王位継承者の俺がいれば、満足だろ!? だから、もう、みんなには手を出さないでくれ!」
ゼファーもルディさんも、母も父も協力してくれた村人達も、ここに集まった民衆達さえも皆驚き、俺を見つめている。ダガーさえも。実久もこちらを凝視し、また大声で叫んでいる。
「りっきー!! だめ!! ぜったいそんなことだめぇぇぇぇ!!」
虚しくそのかん高い声が綺麗な夕焼け空に響く。
――実久、ごめんな。
「……よかろう。我もこれ以上民の中から姑息な魔女なんぞを増やしたくないからな。だがリニアとレスミーも連れて行く。案ずるな、リニアに関しては牢獄に繋いだりはしない。ダガーに嫁がせ、お前と違い、わしの意思を存分に次ぐ男子を生んでもらう。リュウシンとは違い、我はこの世界を救うのだからな」
ふんっと鼻息を荒くした奴がそう言い放った。すると顔を涙でぐしゃぐしゃにした実久が俺に向かって走り出そうとしたが、咄嗟にゼファーから捕まえられた。体を押さえ込まれながら実久が俺の名前を幾度となく叫んでいる。りっきー、りっきーと何度も何度も。そんな実久を静止しているゼファーの顔はいつもの淡々さはなく、歯をぐっと力強くただ食い縛っていた。ルディさんも同じ表情を持ちながら、構えていた剣をゆっくりと地に下ろした。そこには悲しみと思い詰めた顔があり、酷い辛辣さがあった。きっと二人にはとてつもなく苦しい思いをさせてるよな。けど、必死に飲んでくれたんだよな、その悔しさを。
――ありがとな、ゼファー、ルディさん。
敵兵にあっという間に囲まれ、肩をボンっと乱暴に押されると、俺は城方向へ引っ張られ始めた。
「だめぇ……、りっきー、だめぇ……」
弱々しい声が背後から聞こえた。いつもアイツは泣いている。それも俺のことで。顔中に涙を溢れさせながら。きっと今もまた酷い顔なんだろう。お前のことならなんでも分かる気がするよ。
いつも泣かせてごめんな――
敵兵に囲まれた父親と母親も、そのまま城へゆっくりと歩き始めた。父親の横にはダガーが付き、まるでお互いに寄り添って見えるのは気のせいだろうか。
二人の間に少しでも光が灯ればいいんだけどな。
あの夜空に見え始めた明るい月のようにさ――
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