第64話 誤解

夜遅く。

コンビニでの買い物を済ませ、家へと向かう。

袋に入っている物は、全部母さんのお酒のつまみ類である。


「やれやれ……」


夜遅くに母さんがコンビニに行くと急に言い出したので、俺が仕方なく代わりに買い物に来ている。


安田がくれたタリスマンがあるとは言え、女性の夜の一人歩きは危険だからね。

母さんは凄く美人だし、特に危ない。


「コンビニから家まで遠いんだよなぁ……」


家からコンビニまでは、片道で20分もかかってしまう。

自転車ならそうでもないのだが、間の悪い事に、先日盗まれてしまったばかりで歩くしかなかった。


「ん?」


人気のない道を歩いていると、背後から人の足音が聞こえて来た。

こんな所をこんな時間に?

珍しいなと考えていると、足音がドンドン近づいて来る。


ちょっと怖かったけど、まあ俺は太ってて歩くのも遅いからそのせいだろうと気にしない様にしていたら――


「よう」


――すぐ後ろに迫った足音の主と思わしき相手から、急に背後から声を掛けられる。


驚きで心臓の鼓動が跳ね上がった。

こんな時間にこんな人気のない場所で声を掛けられるのは、絶対ろくでもない事に決まっている。

今すぐ走って逃げだしたくなるが、怖くて体がすくんでいしまい足が前に出ない。


「おいおい、無視かよ。ダークソウルのナンバー2は随分と大物だな、おい」


ダークソウルという単語を聞き、俺は少しだけホッとする。

その名前が出るという事は、学校関連の人物だと分かったからだ。


少なくとも強盗や通り魔ではない。

なら、殺されてしまう様な心配はないだろう。


俺は恐る恐る後ろを振り向いて相手を確認する。


声をかけて来たのは二人組。

両方ともがっしりした大柄な体格で、片方は見覚のある人物だった。

確か少し前にクラスにやってきて、急に倒れた人だと思う。


「あ、あの……俺に何か用ですか?」


「大ありだ。シャークバイトと、ダークソウルは抗争中なんだからよ。出会ったらやり合うしかねぇだろうが」


シャークバイトは学校でも有名な不良の集まりだ。


抗争って……


ダークソウルって、そこと揉めてたのか?

ひょっとしてこの前の一件のせいだろうか?


安田は何もしていないって言ってたけど……


今はそんな事より、この状況を何とかしないと。

ナンバー2って言ってたし、その誤解を解けば解放されるはず。


「いやあの……俺はナンバー2じゃなくて、ただの下っ端なんで……だから喧嘩とかは……」


「下らねぇ言い訳してんなよ。いいから黙ってついて来な。別に取って食いやしねぇからよ」


知らない方の男性が、俺の言葉を無視して肩に手をまわして来る。

厳つい相手にそんな事を言われても不安しかない。

逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、恐怖で体がすくんで逃げ出せそうになかった。


うう、絶対殴られる。

痛いんだろうなぁ。


でも……アレに比べたら全然マシなはず。


そう、安田の施術に比べたら。

そう思うと少し気が軽くなる。


いやまあ、それでも殴られて痛い事には変わりないけど……


あ、でもそうそういや今の俺にはタリスマンがあるんだった。

夜道で急に背後から声を掛けられてビックリしたせいで、完全に頭から抜けてたよ。

安田はこれがあれば車に轢かれても大丈夫って言ってたし、殴られても大丈夫なはず。


よし!

ここは強気に!


「お、俺は……いかな――」


「うっせぇ!いいから黙ってついて来い!」


「あ、はい……」


強く睨みつけられて恫喝され、鼓動が跳ね上がって体が委縮してしまう。

我ながらビビりの自分が情けない。

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