第52話 練習台

学校から帰って母さんと一緒に夕食をとっていると、霧崎病院の事がニュースに流れた。

内容はエレベーターの爆発と壁面なんかの破壊の跡、それと血まみれの医院長室の事についてだ。


テレビ画面の中のキャスターは何者かが病院を密かに襲撃し、医院長他数名を殺害ないし誘拐したのではないかと言っている。


「病院襲撃だなんて、世の中何が起こる分からないから怖いわねぇ……」


大丈夫だよ母さん、あれをやったのは俺だから。

だから母さんは不安がる必要なんてないよ。


とは流石に言えないので――


「ほんとだね。でも大丈夫だよ。テロだろうと何だろうと、母さんは絶対俺が守るから」


――母さんを安心させようと力強くそう宣言する。


絶対の有言実行。

たとえ世界を敵に回す事になったとしても、母さんは必ず守り抜いてみせる。


「ふふふ、頼もしいナイト様ね。ありがとう」


因みに、風早剛一郎と亀井会に関しては特にニュースにはなっていなかった。


まあ亀井会は昨日の深夜で、しかも会長の邸宅内の事だから周囲がまだ気づいていなだけだとは思うが……風早剛一郎の方はひょっとして隠ぺいされてんのかね?

まあいくら金持ちとはいえ、個人の誘拐はインパクトが小さいから後回しにされてるだけの可能性もあるけど。


「どう、お母さんお手製のハンバーグは美味しい?」


夕食は母さんのお手製ハンバーグ。

今朝は材料がないという事で、代わりに晩御飯にハンバーグを用意してくれたのだ。


「もう最高!」


母さんのハンバーグは超美味い。

俺の大好物である。


「お代わりもあるから、いっぱい食べるのよ」


「うん」


楽しい夕食が終わり。

机に向かって日課の勉強をする。


そして軽く一眠りしてから深夜に起き――


「じゃ、行くか」


――外に出かける準備をする。


行き先は勿論、邪魔の入らない人里離れた山奥だ。

目的はとっ捕まえている奴らをタリスマンにする事。


今回は大量捕縛したからな。

成功率が多少低くてもかなりの量のタリスマンが、と思ったけど――


「いや待てよ。今すぐ必要って訳でもないし、練習に使うのも悪くないな」


――ふと、蘇生魔法の練習台にする事を思い立つ。


死者蘇生をある程度扱える様になったら、そうとう便利だからな。

練習する価値はあるんじゃないかと思って。


え?

死者蘇生は成功率が極端に低いから、使い物にならないんじゃなかったかって?


まあ現状はそうだ。

ただ俺はその原因が通説である神の横やりなどではなく、純粋に練度や理解の低さにあるんじゃないかと考えていたりする。


つまり練習さえ出来れば、成功率は高まるんじゃないかなぁ……と。


「異世界じゃほとんど練習できなかったからな」


死者蘇生は失敗した時のデメリットがキツすぎて、悪人相手でも練習のために何度も蘇生を繰り返す様な事は出来なかった。

死者の尊厳を踏みにじり嬲り続ける事を、どれだけ憎い相手だろうと、異世界の人達は良しとしなかったからだ。


だから俺も練習する様な真似はしなかった訳だが……


だがここには俺を咎めたり、制止する人間はいない。

そもそも、何をやっているのかを知られる心配自体薄いのだ。

なので俺がそれをセーブする必要性は皆無と言える。


だいたい拷問で相手を追い詰めるのは良いのに、死者蘇生で苦しめてはいけないってのが意味不明なんだよな。

ほとんど変わんねぇだろって思うのは俺だけか?


あ、因みに死者蘇生は人間限定の魔法なので、魔物や動物なんかで試す事は出来ない様になっている。

後、蘇生失敗後は化け物みたいな姿になるが、それでも一応人間扱いなのでそこから殺して更に蘇生させる、なんて事も可能だ。


「タリスマン用は半分ぐらいで、残りは起き上りこぼしにでもなって貰うとするか」


悪人に情けや容赦など不要。


まあ風早剛一郎は一応山田の爺ちゃんだから、そっちに振り分けるのは勘弁してやるとしよう。


もちろん拷問はするが。

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