第53話 練習

人気のない山奥。

その地下深くでの作業。


まず拷問からのタリスマンのコンボ。

完成した数はたったの16個。

成功率は余り宜しくないが、まあそこは良しとして次は蘇生魔法の練習に移る。


取り敢えず殺して蘇生。

殺して蘇生。

これを、変形しすぎて原型が不明になるまで繰り返す。


「ギュエ……ゲゲ……」


肉と骨の混ざった意味不明の球体。

元人間が奇声を上げる。

此処まで来ると、もう練習台にはならない。


何故か?


魔法の調整は、ただ魔法を繰り返せばいいという訳ではない。

魔法自体に微調整を加え、その結果を元に更に調整して行かなければならないからだ。

だからグチャグチャの肉球になってしまうと、変化の有無が判断付かないので、練習台とはなりえない訳である。


「やっぱ難しいな。けど……感触はある」


最初の一人は、10回程蘇生させた辺りで使い物にならなくなってしまった。

だが繰り返し調整して行くうちに変形がまろやかになっていき、20回、30回と、その回数は増えてきていた。

まさに進歩だ。


「アトリがこれ見てたら、絶対激怒物だろうな」


かつての思い人の事を思い出し、苦笑する。

彼女は優しく気真面目な人物だったので、絶対こんな非人道的な真似は許さなかっただろう。


……ま、誰かを救うための拷問なんかは許容してたから、必ずしも融通の利かない頭でっかちって訳ではなかったが。


「おっと……もう朝が近いか」


頭上に浮かべている魔法の鐘が、朝5時を俺に知らせて来る。

そろそろ帰らないと母が起きてきてしまう。


「まあ魔力もかなり使ったし、続きは明日だな」


死体を処理し、穴を埋めて俺は家路に就いた。

そしてベッドに潜り込んで、7時に起床。

母の用意してくれた朝食を終え、学校に登校する。


「山田は今日も休みか……」


まあ昨日母親が帰って来たばかりなのだから当然か。


「帰りに山田んちに寄ってくか」


授業が終わり、俺は山田の家に向かう。

タリスマンを渡すためだ。


「安田」


「よう、お袋さんの様子はどうだ?」


「母さんなら元気さ。今買い物に出かけてるよ」


「そうか」


昨日の今日で買い物に出かけるとか、なかなかタフなおばさんだ。

母は強しなんてよく言った物である。


「まあ上がってくれ」


「ああ」


俺は山田の部屋に通され、ベッドに腰掛ける。


「妹さんの方は?」


「母さんが戻ってきて喜んではいるけど、やっぱまだ引き摺ってる」


「まあ事情が事情だからな」


「うん。母さんも暫くは学校休んでいいって言ってくれてるから、暫くは妹についておくよ」


「そうか、頑張れよ。きっと乗り越えられるさ」


「ああ」


その事に関しては、俺が出来る事は何もないからな。

只励ますだけしかできない。


「でさ、今日はこれを渡すために来たんだよ」


俺はポケットからタリスマンを取り出す。


「これは?アクセサリーか?」


「タリスマンって言う、魔法の護符さ。これを身に着けてたら、刃物に刺されようが銃で撃たれようが無傷ですむぞ」


「え!?マジで!?」


山田が俺の説明に目を丸める。


普通は防刃なり防弾の装備を身に着けなければ防げないし、それだって身に着けていない部分に攻撃されたらアウトだ。

その点、タリスマンはアクセサリーとして身に着けているだけで完璧に防いでくれる訳だからな。

そりゃ驚きもするだろう。


「しかも攻撃されたら、俺がそれに気づける様になってる」


「魔法ってスゲーんだな」


「まあな。これさえ着けとけばもう安心だ。お袋さんと妹さんの分もあるから渡しといてくれ。絶対肌身離さず持っておけよ。身に着けてないと効果がないから」


「ありがとう……安田。俺や家族の事、こんなに考えてくれて……うぅ……ぐす……あり……がどう……」


山田が腕で目元を押さえ、泣き出してしまう。


「友達なんだから当たり前だろ」


「ぐぅ……ふうぅ……」


「まったく、よく泣く奴だな」


俺は山田が落ち着くのを待ってから家に帰った。


「昨日病院の事があったばかりなのに、本当に怖いわねぇ」


夕方のニュースでは、亀井会の集団失踪が流れていた。

対抗組織であった鬼三会が関わっているのではないかと、キャスターは見解を語っているが、当然大外れだ。

そんな奴らは一ミリも関わってはいない。


ま、そんな事はどうでもいいか。


「きっと天罰が下ったんだよ。悪い事してた奴らだし」


そう、奴らには特大の天罰が下っている。

しかも現在進行形で。


「そうねぇ。うん、きっと孝仁の言う通りだわ。孝仁も悪い事はしちゃだめよ。お天道様はちゃーんと見てくれてるんだからね」


「ははは、分かってるよ」


早めに寝て、母が寝たであろう深夜に起きる。


「さて、じゃあ蘇生魔法の練習の続きと行くか」


死者蘇生さえ完璧になれば、最悪守り切れずに誰かが死んだ時の保険になる。

だから頑張らないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る