第43話 日頃の行い
「風早?」
思わぬ状況で聞いた事のある名前がでて、つい口に出して聞き返してしまった。
「ええ、風早グループは知ってるでしょ?そこの会長よ。あたしの父は」
「なるほど」
もちろんそんな会社は知らん。
異世界行く前の俺はアホだったし、戻って来てからはそんな時間も経ってないからな。
口ぶりから、まあ有名な会社なのだろうというのは分かるが。
うちの学校にいる風早は金持ちのボンボンだし、それとも繋がりがありそうだな。
まあどうでもいいか。
今は――
「これからちょっと荒事になるから、あんたを寝かせて安全な場所に避難させる。いいな」
「あ、うん」
ここに向かって来る人間の気配を察知したので、断ってから魔法で山田のお袋さんを眠らせて亜空間へと放り込む。
「扉が!?」
「どうなってんだ!?」
「どうやったらこんな……」
扉の向こうから男達の声が聞こえてくる。
人数は3人程。
人が通れるほどの大穴を開けられた扉を見て、おののいている様子が声から手に取る様に伝わって来る。
俺がそこから顔を覗かせると――
「貴様何者だ!」
「侵入者か!!」
三人全員、看護師の格好をしていた。
但し看護師と決定的に違うのは、その手に黒い物体――銃が握られていた事だ。
もちろん銃口は全て、穴からひょっこり顔を出した俺に向いている。
「サーチアンドデストロイ!」
俺は相手が反応出来ない速度で飛び掛かり、銃を持った手を銃ごと握りつぶす。
その際暴発かなんかで暴発してたが、些細な事である。
因みに、口にした言葉に意味はない。
何となく言っただけだ。
「ぎゃあああぁぁ!!」
「びひいいぃぃぃ……」
「あ、あぁ……あああああああ!!」
痛みに呻く三人の頭髪を引っ掴んで、部屋の中に引き入れる。
やる事は一つ。
「さて、それじゃあ話を聞かせて貰おうか」
三人をそれぞれ音を遮る結界で区切り、順次拷問しつつ話を聞かせて貰う。
音を遮ったのは口裏合わせをさせないためだ。
「ふむ……」
予想通り、この病院は大金持ちや政治家相手の違法な移植を行っている場所の様だ。
普通にドナー待ちしたら移植までに時間がかかったり、海外だと信頼できないとか、日本を離れられないとか、そういった大物相手の商売。
ドナーは系列や協力関係のある病院からデータを集めて探し、適合者を見つけたら亀井会とか言う反社組織がそれを攫って連れて来るってシステムの様で、死体の処理もそこが行っているみたいだ。
情報を精査し、俺は叩き潰す相手を素早く決める。
叩くのはこの病院で今回の移植に関わってる人間。
それに風早剛一郎関連——山田のお袋から移植を受ける事を知ってる連中。
後は、亀井会の上層部の人間だな。
俺は正義の味方じゃないので、これまで違法な移植で利益を享受した奴らを全部見つけ出して始末なんて真似はしない。
そこまで手を広げると、流石に手間が増えすぎてしまう。
「まあ可能な限り証拠を吐き出させて、警察に送るぐらいはするけど……」
関わってる人間を考えると、真面に動くとは思えないというのが本音だ。
俺は警察が清廉潔白な組織で、全ての悪に立ち向かう正義の味方だとは考えてない。
マスコミ辺りに同じ情報を流しても、たぶん似たような物だろう。
まあそもそも、決定的な証拠が残ってる保証自体ないし。
「扉が!どうなってる!?」
追加がやって来た。
場所を動かなかったのは、ゴキブリホイホイ的にこういう奴らを引っ掴まえる為でもある。
「貴様何者だ!ここに来た職員をどうした!!」
今度は二人。
最初の三人の様な看護師姿ではなく、作業服姿だ。
もちろんその手には拳銃が握られている。
因みにここに来る奴らが一々穴の開けられた扉を見て驚くのは、監視カメラの類が一切設置されてないからだ。
地下施設の映像が万一流出したら一大事だから、初めっから映像として残らない様にしているらしい。
え?
捕まった人間が逃げ出そうとしたらどうするのかだって?
捕らえた人間は薬品投入で眠らせており、何かあってもバイタルサインで分かる様になっている。
さっき俺が山田のお袋さんから外した器具や、異空間にポイしたピコピコ言ってた機械がそのための装置だったみたいだ。
そしてそのサインが途切れて慌てて三人がやって来た、と。
で、更にその三人から連絡が入らないので、異常事態と判断して追加で二人やって来たってのが今の状況である。
流石の病院側も、エレベーターを吹き飛ばして侵入し、砲弾なんかを受けても耐えそうな設計の分厚い扉に穴を開けて入って侵入されるとは、夢にも思わなかった事だろう。
「地獄へようこそ」
「ぎゃあああ!」
「ぐああああ!!!」
素早く追加の二人を行動不能にする。そして拷問していた三人の内二人と合わせて魔法で寝かしつけ亜空間に放り込んだ。
「さて、じゃあ理事長にでも挨拶に行くとしようか」
あまり時間をかけすぎると危険を感じたトップに逃亡されるかもしれないので、さっさと頭を押さえに行く事にする。
「案内しろ。まあ拷問の続きを楽しみたいなら別に断ってもいいけど?」
「あ、案内します!案内させてください!!」
その場に残した一人――血まみれの看護師姿の男が、断る事無く俺の頼みを快く引き受けてくれる。
これもきっと、日頃の行いが良いからだな。
俺はそいつの案内で、理事長の元へと向かうのだった。
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