第44話 ジャンプ
恒常的に地下三階に通じるエレベーターは二つ。
一つは関係者用で、降りてきた5人はこれを使っている。
そしてもう一つはVIP用。
要は患者を運ぶための物だ。
まあそれ以外のエレベーターも緊急時用に繋がってはいる様だが、通常はロックされているので、俺の様に吹っ飛ばして下にでも降りない限りそれを使っての昇降は出来ない。
「このエレベーターを一旦降りて、乗り換えなきゃならない訳か」
今乗っているのは関係者用の物で、どうやらそれからでは直接医院長のいる場所には行けない様だった。
エレベーターが6階で止まり、扉が開くと――
「出迎えご苦労さん」
作業着姿の男5人が出待ちしていた。
その手には拳銃が握られており、その銃口は当然の様に俺に向けられている。
こうやって盛大に出迎えられたのは、地下三階に行った人間から連絡がない状態でエレベーターが上がって来たからだろう。
まあもしくは……地下三階には無かった監視カメラが、職員用のエレベーターにはついていたか、である。
まあどっちでもいいが。
「テメェ……何もんだ」
手前の男が質問して来るが、それを無視して俺は動いた。
普通の人間じゃ俺の動きを捉える事も出来ないので、全員の両腕を一瞬でへし折ってやる。
「ぎゃあ!」
「がぁぁぁ……」
「あぐぅぅぅ……」
「後で答えてやるから今は寝とけ」
そして魔法で眠らせ、そいつらを全員亜空間へと放り込んだ。
因みに、魔法はもう隠す気はない。
この世界に普通に存在している物だからだ。
……映像に残らなくても、魔法を使える奴なら痕跡ですぐに気づくだろうし。
なので隠す意味は薄い。
まあ重要なのは誰が使ったのかって点なので、そこにだけ気をつけて追跡出来ない様にしておけば問題ないだろう。
「これで7人……後2人か」
ここで5人。
地下で2人。
常駐している裏の保安要員は全部で9人らしいので、残りは2人だ。
後ろ暗い事をしているだけあって、無駄に警備の数が多い。
因みに最初の看護師三人は銃を持ってこそいたが、純粋なここの職員だそうだ。
チラリと連れて来た男の方に視線をやると――
「……」
まるで魂の抜けた様な顔をしていた。
きっと上の連中が俺をどうにかしてくれると、一縷の望みでもかけていたのだろう。
残念だったな。
「おい、ぼーっとするな?さっさと案内しろ。それとも……拷問のお代わりがいいか?」
「ひ、ひぃぃぃぃ……い、医院長は……この上の7階です!」
男が通路の奥を指さす。
奥は曲がり角になっていて、そこを道なりに進んだらエレベーターがあるのだろう。
そう思って歩き出そうとして――
「まあ一つ上なら、別にエレベーター使わなくてもいいよな」
――やっぱりやめる。
今更静かに進む意味も薄いしな……
「よっと」
「ひえぇっ!?」
俺は男の襟首を掴み、そのままジャンプする。
天井を突き破って上の階に乗り込むために。
そのさい、一応男は死なない様にカバーしておいた。
……コイツには、医院長の確認をさせないといけないからな。
ま、死んでも3秒ルール宜しく生き返らせばいいだけだけど。
死んで3分以内なら、俺の回復魔法でリスク無く蘇生できるし。
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