第49話 普通
「安田!母さんは無事なのか!?」
インターフォンを鳴らすと、どたどたと足音を鳴らして玄関から山田が飛び出して来た。
「話は中でしよう」
玄関でする様な話でもないので、俺は山田の部屋に上がらせて貰う。
そしてお袋さんを亜空間から取り出しベッドの上に寝かせた。
「母さん!胸に包帯が!?」
包帯の巻かれた母親の姿に、山田が血相をかえる。
「怪我は魔法で治してある。今は寝てるだけだから安心しろ」
「そ、そうか。よかった……よかったぁ……ありがとう。安田」
「ああ、気にするな」
俺は山田に何があったのかをサラッと説明する。
その際、元凶が祖父だというのは一応伏せておいた。
それを伝えるかどうかの判断は、山田のお袋さんに任せる事とする。
一応家族の話だからな……
「そんな事が……なあ安田、俺に魔法の使い方を教えてくれないか?」
「家族を守る為に、か?」
「うん。俺に力があったら……妹の事は守ってやれたはずなんだ。母さんの事だって、魔法があればもっと早く助けてあげる事が出来たかもしれない。俺は……力が欲しい。家族を守るための力が……」
それならタリスマンである程度は防げるし、俺が助けてもやるから安心しろ。
そう言おうとして言葉を飲み込む。
――世の中に絶対などない。
もし俺の母と山田達に同時に問題が起こったなら、その時俺は間違いなく母を優先するだろう。
もちろんそんな状況は早々起こりえないだろうし、後回しにしてもタリスマンがある以上、山田達を守ってやれるはずではある。
だがもし、想定を超える事態になったら?
その時は山田を切り捨てる事になるだろうし、俺は躊躇わずそうするだろう。
最優先にするならともかく、そんな気もないのに俺に任せておけば大丈夫だなんて無責任な言葉、友人である山田に言いたくない。
それにそもそも、これは気概の問題だ。
自分の手で家族を守りたいっていう、山田の男としての。
大切な物を誰かが守ってくれるからなんて呑気に構えるのは、男のする事じゃないからな。
「まあそれは構わないんだが……教える場合、色々と約束事を守って貰う事になるぞ?」
魔法を教える事は、まあ可能だ。
だが下手に魔法を使うと色々と痕跡が残ってしまう。
魔法のない世界ならともかく、この世界に魔法がある以上、山田が適当に使えば余計な揉め事をしょい込む事になりかねない。
……それでなくてもこいつ不幸体質っぽいし。
「約束する!約束するよ!だから教えてくれ!」
山田が真剣な表情で俺の両肩を掴む。
まあこいつは真面目なので、余程の事がない限り破る心配はないだろう。
「分かったよ。あと、最初に言っとくけど……魔法を扱える様にするには、かなりの激痛が伴うぞ?」
「そ、そうなのか?」
「ああ。全身の骨が折れるぐらいの痛みだ」
山田には魔力がない。
つまり魔法に対する適性は0だ。
そういった人間に魔法を習得させようとした場合、魔法による抜本的な体質の改革が必要になる。
そしてそれには痛みが伴う。
まあちょっとした魔法が使える様にするだけなら、そこまでの痛みではないんだが……
タリスマンが破られる前提での護身レベルと考えると、それ相応の魔力が必要になって来る。
「そ、それでもお願いする。どんな痛みにも耐えてみせる。だから俺に魔法を教えてくれ」
「分かった。まあ今日はもう帰るから、教えるのは全部終わってからな。後、お袋さんには俺の事は秘密だぞ。謎の正義の魔法使いが連れて来てくれたって事で」
「わかった。そう言っとくよ」
山田んちでやる事を済ませた俺は家に帰り、母子団欒を過ごす。
普通に家の事を手伝い。
普通に夕食を取り。
普通に母とテレビを見て笑い。
10時になったら普通にベッドに入り。
深夜に普通に目を覚まし。
そして普通に亀井会を潰しに出かける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます