第50話 亀井会

亀井会は一言で言うなら反社だ。


「無駄にデカイ屋敷に住んでんな」


闇で全身を覆い、上空から会長の住む邸宅を見下ろす。

少し郊外とはいえ、その敷地面積はかなりの物だ。

正に悪い事は儲かるを体現している住処と言えるだろう。


「警備はかなり厳重、と」


深夜だと言うのに、黒服の男達が敷地内を巡回しているのが見える。

全部で30人程。

いくら広いとはいえ、警備としては明らかに過剰だ。


「悪人だから常に防備は万端……ってよりかは、やっぱ病院潰されたから警戒してんだろうな。あそこの警備員、亀井会の人間だったし」


常時組員30人が夜警を務めると考えるより、繋がってる病院が襲撃された事で今は警戒してると考えた方が無難だろう。


「まあある程度纏まってくれた方が楽だから、こっちとしては逆に助かるけどな」


警備にあたってるのは組員だろうから、一網打尽に出来るという物。

下っ端を一々全滅させる気はないが、間引は出来るならやっておきたかったからな。


「さて……じゃあ結界を張って」


魔法を詠唱する。

広範囲に消音と脱出阻害の結界を張って、逃げられない様にするためだ。

因みに効果は地下にも及ぶものなので、地下道から脱出という真似も出来ない様にしてある。


魔法を使える奴が屋敷にいたら、この時点で気づいて飛び出して来るんだろうが……


「特に妨害は無し、と」


魔法や呪術を扱える奴はいない様だ。

まあ出て来ても瞬殺するか、もしくは無視して結界で閉じ込めるだけだけど。


「お邪魔しますよ」


結界さえ張れてしまえばもう憂いはない。

俺は巡回してる奴らの目の前に着地する。


「ひっ!ば、化け物!?」


「な、なんだぁ!?この化け物死にやがれ!!」


闇で覆われている俺を、一目で人間と判断するのは難しい。

二人いた片方は恐怖に尻もちを搗き、もう片方は「死ね死ね」連呼しながら拳銃を俺に向かって乱射してきた。


まあ勿論そんな豆鉄砲が俺に効く訳もないので、素早く二人とも殴り倒して気絶させて亜空間にしまい込む。


「なんだ!?何があった――っ!?化け物!?」


銃声を聞きつけて、敷地内を巡回していた奴らが集まって来る。

そいつらの反応もだいたい同じ。

化け物呼ばわりして銃を撃つか、ビビッてその場で固まるかだ。


俺はそいつらを片っ端から殴り倒して無力化して行く。

加減をミスって何人か殺してしまったが、まあちょっとぐらい情報元が減っても大丈夫だろう。

タリスマンの材料も腐る程確保してるしな。


「外にはもう誰もいないな」


警邏してた奴らは、全部殺すか気絶させて亜空間に放り込んだ。

次は建物内にいる奴らである。


「お邪魔しまーす」


俺は礼儀正しく挨拶してから、亀井会会長の邸宅に上がり込んだ。


★☆★☆★☆★☆★☆★


「なんだあれは!?なんなんだあれは!!」


下から襲撃者の報告が上がり、回された監視カメラによる敷地内の映像を見て、亀井会の会長が悲鳴を上げた。


組織のトップとしては無様な反応だが、それも仕方ない事だろう。

見るからに人外にしか見えない謎の生物が、しかも銃がまるで効かない様な化け物が、自分の敷地内で好き放題暴れているのだから。


鬼三おにみ会の奴等、化け物を飼ってやがったか」


その横で白髪の壮年の男——亀井会ナンバー2の滝沢が、その映像をみて呟く。


亀井会は霧崎病院の一件を、対抗組織――鬼三会の仕業だと判断していた。

自分達の太客を潰し、亀井会を弱らせに来たと判断したのだ。


「ちっ、あっという間に全滅か……所詮一般人じゃ、化け物の相手は無理だから仕方ねぇっちゃ仕方ねぇが」


今の過剰な警備は、暫くは鬼三会からの襲撃を用心する為に配備された腕利きの人員だったが、それがたった一匹の化け物にあっという間に蹂躙されてしまう。

普通なら顔を青く染めるその状況で、滝沢は口の端を歪めて笑う。


残っているのは亀井夫婦と、モニター監視員。

更に会長のガードを務める6人と、それを纏める滝沢のみだ。


「駒井、一応応援を要請しとけ。それと白沢と木本は万一の事態に備えて、親父達を裏口から逃がせ」


「へい!」


「分かりやした!親父、案内します!」


滝沢の命令に従い、部下達が動く。


「それじゃ俺達は化け物退治と行こうか」


「「「「へい!!!」」」」


屋敷の入り口に、人型をした闇の塊のようなモノが入って来る映像がモニターに映っていた。


気孔闘士オーラバトラーの恐ろしさを見せてやる」


それを目の端で滝沢は捕らえ、入り口の方へと向かう。

化け物を退治する為に。

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