第3話 理由

「ぎゃああぁぁぁぁ!!いでぇ!いでぇよ!」


ゴリラはその場で蹲り、膝を抱えて泣き叫ぶ。

異世界なら殺されても文句の言えない状況だったとはいえ、ここは平和な日本だ。

ちょっとやりすぎたかなと反省し、花瓶を置いた後、心配した素振りで近づいて周りに見えない様サラっと魔法で回復してやる。


「あれ?痛くねぇ……」


それまで喚き散らしていたゴリラが、傷みが収まった事を不思議そうにしながら立ち上がる。

本人は気づいていない様だが、その股間はびっしょりと粗相で濡れていた。


「ちょっ、やだぁ」


「おいおいマジか?相田の奴、漏らしてんじゃねぇか?」


集まって来た生徒達がゴリラ――相田の股間を見て失笑を漏らす。


「うぉっ!?ち……違う!これは違う!!」


「何が違うだよ。きったねーな」


「良い年してお漏らしかよ。」


クラス中から一斉にからかわれる相田。

あっという間に、顔がゆで蛸の様に真っ赤になる。

これが他の人間なら可哀想に思わなくもないが、虐めを進んでする様な奴なので知った頃ではない。


「ぐっ……くそっ!テメェ安田!俺に何しやがった!!」


「ん?何もしてないけど?」


おれはただ膝を砕いて、そのあと回復しただけ。

それだけである。


小便を漏らしたのは相田本人が勝手にした事なので、俺は何もしていない。

言いがかりは止めて欲しい物だ。


「ふざけんな!ぶっころすぞ!!」


相田が拳を振り上げる。

これを躱すのは容易いし、その後の追撃だって全く問題なく対処できるだろう。


だが考える。

何故俺は虐められていたのかを。


当時はオツムが弱く、経験が浅くて理不尽に苦しむだけだった。

だが今なら分かる。


――それは俺が弱かったからだ。


侮られる程無力だったから、相手は遠慮なくこちらに攻撃を仕掛けて来るのだ。

もし俺が無力な高校生ではなく、野生の熊だったらどうだろうか?

手を出す所か、近づくだけで命の危機にさらされる相手に好んで攻撃を仕掛ける馬鹿はいない。


――つまりはそう言う事だ。


「なにっ!?」


俺は相田の拳を片手でしっかりと受け止める。

自分の力をアピールする為に。


回避はまぐれでも出来てしまうからな。

けど正面から攻撃をがっちり受け止めるのは、まぐれでは起こりえない。


これで俺がいい様にやられるだけの弱者じゃないって事は、周囲にもきっちり伝わっただろう。


あとは――


「てめぇ、離しやがれ!」


相田が手を引き離そうと藻掻くが、俺の手がガッチリ拳を掴んでいいるので抜け出せずにいる。


「いやだね」


「くそが!俺を舐めんな!」


――相田を分かりやすくぶちのめしてやれば、このクラスで俺に好んで喧嘩を売って来る奴はいなくなるだろう。


相田が空いているもう片方の手で俺を殴ろうとする。

だが、それが当たるよりも早く俺の拳が奴の鼻を捉えた。


「ぐぁっ!?」


相田の鼻から血が流れる。

正直、今の一発で気絶させる事も簡単だったが、それをしなかったのは一発よりも二発で倒した方が周りの人間には分かりやすいと思ったからだ。

ラッキーパンチなどではなく、実力できっちり倒したと。


「て……て……て、テメェ……」


「寝てろ」


今度は腹に拳を叩き込んでやる。


「ぐえぁ……」


相田は間抜けな呻き声を上げ、その場で膝から崩れ落ちた。

静まり返る教室。


「はい、終了。あ、次からふざけた事して来る奴は相手が女でも同じ目に合わせるから。覚悟しておいてくれよ」


これでまあ、このクラスで俺に絡んで来る奴はいないだろう。

まあいたらいたで、そいつもぶちのめすだけだが。

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