第7話 誘拐

今の俺は闇を纏い――比喩表現ではなく正真正銘、魔法で闇を纏っている状態で空中に浮いている。

これなら万一誰かに姿を見られても、俺だとバレる心配はないだろう。


この隠形の欠点は、闇に阻まれて俺からも外の様子が見えない事だが、それも感知魔法を別途使う事でクリアしている。


「良い所に住んでやがんな」


犯人一行は、山田の同級生だ。

なので卒業証書の住所録から、居場所は割れている。

最初に来たのは長友って奴の所で、結構な高級マンションに住んでいた。


「ひょっとして……全員揃ってるのか?」


山田を襲ったのは4人組。

どうも感知した感じ――卒業写真で姿は確認している――4人全員揃っている様だった。


「こんな夜中に集まって何やってんだよって言いたい所だけど……纏まっててくれるなら手っ取り早くて助かる」


あっちこっちに行かなくても済むからな。


まあ他にも人がいるが、それは別の部屋なので問題ない。

まずは外から室内に結界を張るからな。

移動を阻害し、内部の音をシャットアウトする結界を。


そのためにベランダに降り立つと、中から声が聞こえて来た。


「ぎゃはははは。あいつチョー受けたよな」


「生意気言うからちょっと小突いただけで泣き出しやがったからな」


うちの高校の生徒に引けを取らない、脳みそのない会話だ。


「そういや山田の奴、金持ってくるかな?」


「はっ、あいつんちはビンボーだからそんな金ねーっての」


話が山田の事になる。


「ははは、払えねーなら妹に体で払わせりゃいいだけだ」


「そうそう」


「まあ初めっからそのつもりだしな」


「はははははは」


糞だな。

聞くに堪えん。


俺はさっさと魔法で結界を張る。


しかし魔法のない世界は楽でいい。

こうやって堂々と結界魔法を使っても、中の間抜け四人は全く気づきやしないのだからな。

これが魔法のある世界なら、結界を張ろうとしたら絶対バレていた事だろう。


「さて……」


施錠されていなかったので、俺は堂々とガラス戸から内部へと入った。


「はっ!?」


「な、なんだぁ!?」


「うわっ!?」


俺は全身を闇に覆われている。

なので奴らからは、真っ黒な靄の様に見えている筈だ。


取り敢えず手近な奴に近づき、その片手を無造作にへし折る。


「がっ……いっでぇぇぇぇぇぇ!!」


「ひぃぃぃぃ!ば、化け物!!」


「うわわわわ……な、なんだ出られねぇ!」


「テメェ!なにしやがる!殺すぞ!!」


腕を折られた奴が痛みで喚く。

それを見て二人が逃げ出そうとするが、部屋から出られず結界に弾かれる。


で、最後の一人は今の俺相手に威嚇して来た。

肝が据わってるって言うより、状況が意味不明過ぎて混乱してるって所だろう。


「お前ら……スマートホンを出せ」


ああそうそう、声は事前に魔法で変えてある。

顔見知りでも何でもないが、万一映像や音声を録画されていた場合の対策だ。

まあ自分達のいる部屋を撮影したりしてる訳はないと思うけど、念のためだ。


感知魔法ではわからないのか?


感知魔法は周囲を把握できるが、それは形だけで、どういった物かまでは分からない。

それに物同士が密着していると形を誤認する可能性が出て来るので、万能には程遠いのだ。


「ふざけんな!」


逃げ出そうとした二人は、その場で尻もちをついて情けない奇声に近い悲鳴を上げて俺の言葉に反応しない。

そして威嚇してきた奴は殴り掛かって来た。


なので両足をローキックでへし折る。


「ぎゃあああああっっ」


「うるさくて敵わないな」


結界があるので外に音が漏れる心配はない。

けど、全員が喚いたり悲鳴を上げるのは不快指数が高い事高い事。

俺は風魔法を使い、そいつらの声——振動を打ち消して無音に変える。


「もう一度言うぞ。スマホを出せ。4人分全員だ」


骨を折った二人は痛みでそれどころではなさそうなので、壁に背を押し付け座り込んでいる二人に声をかけた。

何か叫ぶが、当然魔法をかけているので声は聞こえない。


動く様子がないので、俺は右の奴の腕を蹴り飛ばしへし折る。


「もう一度言うぞ。次はお前の番だ。さっさと全員分のスマホを持ってこい」


まだ骨を折ってない最後の一人がはんべその顔で激しく頷き、慌てて4人全員のスマホを集めて来た。

全部で6個。

人数と数があっていないのは、複数台持ちがいるためだろう。


回収の際、視線を一度も部屋の外には向けなかったので、室外に置いてある可能性は外しておく。


……この中に、山田の妹の映像が入っている筈だ。


スマホを握りつぶそうとして、だが俺は止める。

データをネットで公開なんかしたら、刑務所行きになるリスクが跳ね上がってしまう。

なので山田はビビっていたが、俺はそれはないと思っていた。


だが、それ以外の流布ならどうか?


例えば知り合いに自分達の武勇伝として、個人的にデータのやり取りをした可能性がないとは言えない。

そう考えると、そいつらを辿る為に連絡先は残しておく必要がある。


なので映像回収のために、スマホは残しておく。


取り敢えず――


「寝ろ」


――俺は魔法で4人を寝かす。


そして全員を亜空間へと放り込んだ。

ゲーム的にいうなら、インベントリって奴である。


この四人を誘拐するのは、もちろん情報を引き出すためだ。


「さて、全部消していくか」


パソコンにはバックアップデータが入っている可能性がある。

だがそれだけを持ち去ったり壊したりてしまうと、目的が透けてしまう。


だから全部壊す。

粉々にして。


燃やして火事を装う手もあるが、中にいた4人が突然消える以上不自然極まりない状況である事に変わりはない。

どうせ不自然なのだから、燃え残りを気にしなくて済む全破壊が確実だ。


「はぁっ!」


全身から魔力を衝撃波に変えて放ち、部屋内にあった物を全て粉々にする。

その際の音や振動は、全て結界が飲み込んでくれるので外に漏れる心配はない。


「さて、じゃあ拷問コミュニケーションといこうか」


俺は結界が10分後に消える様に細工し、ベランダから脱出した。

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