第66話 二枚抜き

――人気のない山の中。


「これから教える魔法は、俺が教えられる魔法の中で一番威力が低い奴だ。しかも攻撃範囲が狭くて、射程も10メートルぐらいしかない。だからぶっちゃけ、威嚇ぐらいにしか使い道がな無かったりするんだが……」


「そうなんだ」


「まあでもその分詠唱はくそ短いし、習得するのも簡単だからな。最初に覚えるには持って来いだ。いいか――」


安田が俺に魔法の使い方を教えてくれる。


「よし、じゃあ一発撃ってみろ」


「う、うん」


安田に促され、俺は魔法を詠唱してみた。

伸ばした手の先で、魔力が圧縮されるのを感じる。


このまま発動して――


魔力弾バレット……って、あれ?」


が、何故か魔力が打ち出す直前に霧散してしまい失敗してしまう。


「ふむ……集中力の問題だな。どこを狙うか定まってなかったから、魔力が飛ばずに霧散しちまったんだろう。なんか分かりやすい的があった方がいいな」


安田が10メートル程離れた位置へと移動する。


「よし、俺に向かって撃ってこい」


「え!?いやそれは流石に……」


「大丈夫だって。威力低いって言っただろ?当たっても怪我一つしねぇよ」


「ああ、そうか……」


まあ安田が言うのならそうなのだろう。

俺は言われた通り、安田を目標にして魔法を詠唱する。

けど、またもや失敗。


「なかなか難しいね。これ……」


「まあ初めてだししょうがない。やってればそのうちコツをつかめるはずだ。頑張れ」


「うん」


そこから何回も失敗して、途中で魔力が切れた(失敗しても魔力は使う)ので休憩を挟みつつ一時間程練習した所で――


魔力弾バレット!」


――遂に魔法は成功する。


生み出された、スイカサイズの光の玉がとんでもない速度で安田に飛んでいく。

だが安田はそれを虫でも払うかの様に、あっさりと手の甲で弾き潰してしまった。


バシーンと大きな音が響き、魔力の塊が一瞬で霧散する。

安田は威力が弱いとは言っていたが、どうやら本当に大した事は無かった様だ。

まあスピードと、潰された時の音は凄かったけど。


「おめっとさん」


「う、うん……ありがとう」


「威力がショボくてがっかりしたか?」


「ははは、ちょっとだけ」


「さっきもいったけど、これは威嚇程度にしか使えないからな。まあ弱い相手なら吹っ飛ばすぐらいはできるだろうけど……ま、魔力がまだ安定してないから強い魔法はおいおいな。今はこの魔法を完璧に使える様に練習だ」


「わかった」


その後数時間、魔法の練習をする。

その結果、俺は魔力弾バレットを完全に習得した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


安田から習った魔法を使うしかない!


「死ぬ準備はできたか?」


山根が手の指をゴキゴキと鳴らしながら、こっちに近づいて来る。

正直、石を砕く様な奴相手にあの魔法が真面に通じるとは思えなかった。

だけど怯ませたり、あわよくば吹っ飛ばしたり出来るかもしれない。


――そうすれば逃げる隙が出来る筈だ。


幸い、詠唱が短くて乱射も出来るから、追いつかれそうになる度に魔法を当てて……


ちょっと無理な気がしなくもないが、他に手はないんだ。

なら、安田から習った魔法にかけるしかない。


俺は素早く小声で魔法を詠唱し、右手をニヤニヤしながら近づいて来る山根へと向け――


「あん?何する気だ?」


魔力弾バレット!」


そして魔法を発動させる。


「なんだ!?」


俺の右手の先に生まれた魔法の光球。

それが超高速で山根へと飛んでいき、綺麗に奴の胸へと命中する。


――吹き飛ばせればラッキーだと思っていた。


だがそれは予想に反し――


「へ……」


――山根の胸にでかでかと大きな風穴を開けてしまう。


更に、人間の頭部より大きな山根の胸に開いた穴。

その穴からは、首のない人間の姿が見えた。

位置的には、鮫島っぽい。


何で穴?


なんで首が?


何が起こったのか全く理解できない。


「え?威嚇ていどのいりょく……え?いか……く?」


二人の体から盛大に血が飛び散り、どさりという音と共にその体が地面に崩れ落ちた。

まるで現実味のない光景に、頭が上手く回らず、思考が麻痺してぼーっとその様子を眺めながらこんな事を考える。


威嚇とは一体。


と。


あと――


こういうのを一石二鳥って言うんだろうな。


とか。

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