第11話 タイマン

連れて来られたのは校舎裏だった。

べたべたな場所だが、確かに真面な生徒は寄って来ないので(そもそもこの学校に真面な生徒はほとんどいないっぽいが)荒事には向いている。


「おいおい相田ぁ。まさかそのひょろいのに負けたのか?」


「くくく。まじかよ、だっせぇなぁ」


校舎裏にはいかにもな連中が7人ぐらい。

そいつらは口々に相田を嘲笑う。


まあ元々体格が良かった訳でもなく、数日前まで寝たきりだった影響もあって俺の体格はガリ寄りだからな。

身体つきだけで考えるなら、そう判断しても仕方ない事だ。


「ごちゃごちゃうっせぇぞ!」


そいつらを郷田が一喝すると、それがピタッと止まる。

不細工ゴリラは一応ナンバー5だけあって、周りから恐れられてる様だ。


「こいつは弱くねぇ。態度見てりゃ分かる」


どうやらある程度人を見る目はある様だ。


「とは言え、俺の敵じゃねーけどよ」


郷田がブレザーの上着を脱ぎすてる。


「安心しな。リンチなんてせこい真似はしねぇ。タイマンだ」


タイマンって一見正々堂々男らしく聞こえるが、自分のホーム。

しかも手下だらけの中でやってる時点で、全然正々堂々でも何でもないんだよな。

見るからに約束守りそうにない集団相手だと余計に。


まあ俺の場合は全く影響ないけど。

なんなら、全員で一斉にかかって来て貰っても構わないぐらいだ。


「かかって来な」


郷田が人差し指を前後に動かし、かかってこいのジャスチャーをする。

そのまま何も考えずワンパンで終わらせてもいいんだが……


「ふむ……」


ナンバー5を一撃でのしたら、絶対悪目立ちするよな?


別に面子を立てる訳ではないが、此処は少し苦戦した方が……いや、面倒くさいし別にいいか。

わざと負けるならともかく、5番手に勝つ時点でどうせ目立つ訳だし。

それなら逆に一発で倒して強さを見せつけた方が、虫よけにはなるだろう。


まあショーコやエミみたいな勧誘は増えるかもしれないが、一々呼び出されて喧嘩するよりかはマシである。


「じゃあ行くぞ。今からこの拳で顔面ぶん殴るから、歯を食い縛れよ」


俺は握った右拳を分かりやすい様に上げ、そう宣言する。


「はっ、予告かよ。いいぜ、先に一発ぶん殴らせてやる」


郷田は打たれ強さに自信でもあるのだろう。

自身の頬を親指で差した。


それが自身の最後の言葉になるとも知らずに……


いやまあ別に殺しはしないけど。


「じゃ、遠慮なく」


一瞬で間合いを詰め、郷田の顔面に右拳を叩き込むだ。

その衝撃に歯が何本か飛び散る。


……だから食い縛れっていったのにな。


そのまま吹っ飛んだ奴は仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。


「「「……」」」


想定していなかったあり得ない事態だったのだろう。

不良共はまるで時が止まったかの様に動きを止め、場はしんと静まり返った。


「さて……他に俺とやりたい奴はいるか?何なら全員纏めてでもいいんだぜ?」


そう尋ねるが、誰も名乗りを上げない。


「やらないんだな?じゃあこの件はこれでお終い……いや、まだ残ってるか」


何が?

もちろんお仕置きだ。


郷田が態々俺を訪ねて来たのはなぜか?

答えは簡単である。

泣きついた奴がいるからだ。


俺は視線を相田と青髪へと向ける。


「あ……いや、あの……」


「ま、待ってくれ!俺は相田に付き添っただけでだな……」


視線に気づいた二人が慌てふためく。


「そう慌てなくてもいい。それぞれ一発づつビンタするだけで許してやるから」


ビンタ一発で許してやるとか、我ながら優しい物だ。

余りに優しすぎて、ノーベル平和賞を受賞してもおかしくないぐらいである。


「じゃあ行くぞ」


「ま、まってく――ぐぎゃっ!?」


「俺は関係――ぎゅえ!?」


ビンタすると、郷田と同じく、歯が何本か飛んで二人は地面に倒れ込んだ。


「最後にもう一回聞くけど、文句のある奴は手を上げろ」


俺は何となく両掌をパンパンとはたきながらそう尋ねた。

当然誰も手は上げない。

この場で上げられるんなら、さっきの時点で名乗りを上げてるだろうからな。


「じゃあ……」


「あら……郷田ちゃん負けちゃったの?」


もう用はないと返ろうとしたら、急に背後から野太い声が聞こえて来た。

振り返り、そして俺は目を見開く。


そこにいたのは――


「郷田ちゃんに勝つなんて……貴方、喧嘩強いのねぇ」


――身長2メートル以上はあろうかと思われる、筋肉の塊のような体つきをした大男。


そいつはホームベースの形をした厳つい顔をしているにもかかわらず、分厚いその唇には真っ赤な口紅が塗られており。

しかも口調はおねぇ。


この見た目でおカマとか……


いやまあ、そんな事はどうでもいい。

俺が本当に驚いたのは、その広い額に――


でかでかとギャオスと書かれていた事だ。

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